日本の経済はなぜ「40年間一人負け」なのか 平均年収は韓国以下に
政策の優先順位さえ分からない
たとえば「分配」にしても、岸田総理は「分配するためには元手となる経済成長が必要だ」という指摘を受け、今年1月17日の施政方針演説で、「成長と分配の好循環を達成する」と表現を変えました。しかし、どのようにして成長と分配を好循環させるのでしょうか。その政策にはなんら連関がなく、単に「デジタルを利用した地域活性化」「10兆円ファンドで先端的な大学を支援」「再教育・副業活用で人的投資の充実を」など、項目が羅列されているだけ。政策の優先順位さえ、少しもわかりません。
5月5日にロンドンで行われた岸田総理の講演でも同様でした。「科学技術・イノベーション」については、国家が呼び水となって企業の投資を促すと語りましたが、現在、日本企業の研究開発投資は極めて少ないのです。それを増やすための道筋が求められているのに、ロードマップは全然示されません。「グリーン、デジタルへの投資」も、2030年に17兆円に拡大し、今後10年間で、官民で150兆円を投資するといいますが、いかにして実現するかについては、まったく不明瞭なままです。
「人への投資」の有効性は疑問
5月31日には「新しい資本主義」の実行計画案が発表されましたが、今度はそれまで強調されていた「分配」が前面から消え、「人への投資」や「科学技術」「脱炭素化」などにすり替わっていました。
しかも、「人への投資」では、国民の資産所得倍増プランとして、「NISA(小額投資非課税制度)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の拡充を検討するというのですが、有効性ははなはだ疑問です。というのも、NISAは年額120万円まで、iDeCoはサラリーマンだと最大でも年額30万円弱と量的に少なく、資産をそこに投資したところで、大きな効果は望めません。
財務省出身の柴山和久氏が創業したウェルスナビをご存じでしょうか。日本には超富裕層こそ少ないですが、働き盛りの小金持ちは大勢います。そういう人に向け、AIを駆使して最適な資産運用プランを提供するもので、すべてスマホですみます。日本では資産運用のほとんどが高齢者向けで、多くの金融機関などで昼間に行われています。働き盛りの中間層にはAIのサービスが必要でしょう。
投資が低迷する本当の理由
しかし、忘れてはならないのは、投資の原動力になるのは経済成長であり、その果実として需要が増えないかぎり、賃金は上昇しないということです。
アメリカでは、個人資産の6割が株式などのリスク資産に投資されていますが、それはアメリカ経済が、長期にわたって成長し続けているからです。一方、日本はバブル崩壊以降、経済成長が乏しいまま。多くの収益が望めないから投資が低迷しているのです。「新しい資本主義」では投資の活発化を唱えていますが、大切なのは、着実に経済成長を実現させることです。
また、成長戦略の一環として、「非正規雇用者を含む約100万人を対象に、能力開発や学び直し(リカレント教育)などの支援を進める」とありますが、これがはたして成長戦略として有効でしょうか。
6千万人の労働者がいる日本で、100万人は労働市場の流動化という観点から見たときに、あまりに小規模です。労働力を成長産業に注力するためには、100万人程度ではまったく足りず、2千万~3千万人規模の移動が必要でしょう。
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