安倍外交の真価 日本はアメリカの「代理戦争」戦略に巻き込まれるな

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 銃撃事件で死去した安倍元総理の通夜が営まれた7月11日、外国要人による来日と弔問の動きが相次いだ。ブリンケン米国務長官は同日午前、岸田総理を表敬訪問し、安倍氏への弔意を伝達した。台湾の頼副総統も同日、安倍氏の自宅を訪問した。

 安倍氏の国際社会における存在感の大きさが改めて実感された形だ。

 安倍氏は総理在任中、日米同盟の強化に努めるとともに、ロシアと中国が連携して日本に対抗する構図になることを阻止してきた。このため、ロシアのプーチン大統領と27回の首脳会談を行い、中国の習近平国家主席との関係構築も進めてきた。

 タカ派と言われた安倍政権だったが、外交の基本は対話重視だった。「ロシアのウクライナ侵攻のような安全保障上の危機がアジア地域で起きなかったのは安倍氏の功績だ」との評価が出ているほどだ(7月9日付ニューズウイーク)。

 残念ながら日本を巡る安全保障環境は急速に悪化している。

 北大西洋条約機構(NATO)は6月29日、今後10年の指針となる新たな「戦略概念」を採択、中国について「我々の利益、安全保障、価値観への挑戦」を突きつけていると初めて明記した。今回の戦略概念の見直しにより、旧ソ連に対する同盟とした出発したNATOは「中ロ専制主義」に対する同盟へと変わったことになる。

 岸田総理は6月29日、NATO首脳会議に日本の総理として初めて出席した。岸田総理は、中国を念頭に「ウクライナは明日の東アジアかもしれない。力による一方的な現状変更の試みはけっして成功しないということを示さなければならない」と訴え、NATOとの協力を強化する考えを表明した。

 ウクライナ危機を契機に、日本はロシアはもちろんのこと、中国に対しても強硬路線に転じたかのような印象が強いが、はたして大丈夫だろうか。

米国の「失敗」

 ロシアによるウクライナ侵攻の長期化が進む中、米国の保守系シンクタンクであるランド研究所が2019年に発表した報告書に注目が集まっている。

 報告書のタイトルは「ロシア拡張~有利な条件での競争」、米国がロシア、中国などの「敵対的勢力」に対して採用する戦略的対応が主な内容だ。その内容をかいつまんで説明すれば「米国側が挑発して、敵対的勢力に過剰な反応を引き出し、これに対抗する形で米国が行動に出ることでその影響力を喪失させる」というものだ。

 2019年以降、米国政府は英国とともにウクライナに対して軍事支援を強化してきた。両国の後ろ盾を得たことでウクライナ政府はロシアに対して強気に転じ、停戦合意を破棄し、ドンバス地域で軍事攻勢を強めた。これに対しウクライナ国境沿いに兵力を増強させて圧力を高めていたロシア政府は、2月24日に軍事侵攻に踏み切った。米国側の挑発(ウクライナの軍事支援等)→ロシア側の過剰反応(ウクライナ侵攻)という一連の流れは、報告書が想定したとおりの展開だ。

 ランド研究所の報告書に従い、米国政府は対抗手段として、ロシアに対して過去最高レベルの経済制裁を科し、ウクライナに対して破格の軍事支援を行っている。だが、対抗手段の有効性に大きな誤算があったことは否めない。

 ロシアの戦費調達に欠かせない外貨収入を断つため、強力な制裁を講じているが、世界的な資源不足が災いして、ロシア経済に深刻な打撃を与えるに至っていない。ウクライナに対する軍事支援も当初期待されたほどの成果は出ておらず、物量で勝るロシア軍の優位が明らかになりつつある。米国政府は「ロシアの影響力を喪失させる」ことに失敗したと言わざるを得ないだろう。

 前述の報告書の中で中国に関する記述は少ないものの、「ロシアは米国と正面から対決する余裕はないが、中国は力をつけている」として、中国を「真の敵」だと位置づけていることが気になるところだ。

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