安倍元首相の国葬案に賛否両論 吉田茂という前例も“高いハードル”

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国葬と合同葬の違い

 その佐藤の死去に際しても、沖縄返還を実現し、ノーベル平和賞に輝いた功績などから、同じように国葬を求める声が出た。しかしこちらは、「自民党と国民有志による国民葬」に落ち着いた。

「その後、この方針が踏襲されます。現職の首相だった大平正芳(1910~1980)は、参院選の遊説中、心不全で死去。同じく小渕恵三(1937~2000)も、脳梗塞で死去しますが、2人とも国葬ではなく『内閣・自民党合同葬』でした」(同・記者)

 安倍元首相の祖父である岸信介(1896~1987)も、やはり「内閣・自民党合同葬」が行われた。

 他に鈴木善幸(1911~2004)、橋本龍太郎(1937~2006)、宮澤喜一(1919~2007)など、「内閣・自民党合同葬」が実施された首相経験者は多い。

「国葬との違いは、『国費が全額か半額か』だけだと言っていいでしょう。国葬の重要な特徴の一つとして、『三権の長の出席』を挙げる意見もあります。しかし、これまでの『内閣・自民党合同葬』にも、首相、衆参両議長、最高裁判所長官が出席した例は多い。国葬は反対意見が根強いため、いわば『名を捨てて実を取った』のが合同葬と言えるかもしれません」(同・記者)

世論二分の危険性

 記憶に新しいのは、中曽根康弘(1918~2019)の合同葬だろう。

「前例を踏襲して合同葬となりましたが、費用を巡って一部の有権者から反対の声があがりました。具体的には、2億円の費用のうち、半分の1億円に国費が充てられました。これに『税金の使途として適切ではない』という反対意見があったのです」(同・記者)

 更に55年体制が崩壊し、「首相を辞任した後、自民党を離れた政治家」や、「非自民連立政権の首相」が誕生したことも、その葬儀に影響した。

「自民党政権下で首相に就任したものの、その後、離党した海部俊樹(1931~2022)や、非自民連立政権で首相に選ばれた羽田孜(1935~2017)の場合、内閣は葬儀に関与せず、全く税金が使われないものとなりました」(同・記者)

 日本政治に詳しい日本大学名誉教授の岩井奉信氏は「安倍元首相の国葬を無理に行うようなことがあれば、世論が二分してしまう危険性があります」と言う。

「安倍元首相の功績は大きく、国際世論の評価が高いのも事実です。しかし、国内世論では毀誉褒貶が激しい政治家であったことも、また間違いありません。今後どれだけ議論を重ねても、国葬賛成と反対が入り乱れ、収拾がつかない可能性が高いでしょう」

 安倍元首相が凶弾に倒れ、多くの有権者が民主主義の根幹が揺らいでいると不安に感じていることも考慮しなければならないという。

「国葬か合同葬かを選択する必要があるならば、国民が一丸となって安倍元首相を見送るためにも、前例を踏襲することで混乱を最小限に抑えることが求められていると考えます」(同・岩井氏)

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