「SASUKE」が五輪種目に急浮上 絵空事ではないこれだけの理由
SASUKEが五輪種目になる! ネットメディアやテレビ番組で報じられ、話題を集めている。SASUKEとはTBSテレビの番組で人気の障害物レース。コースは大がかりな機械装置で、チャレンジャーは難しい障害を次々にクリアし、制限時間内にゴールを目指す。1997年9月に初めて放送されて以来不定期に放送され、昨年12月までで39回を数えている。当初は同じTBSの人気番組「筋肉番付」のスペシャル企画だった。
キング・オブ・スポーツ
そもそもは任天堂のテレビゲーム「スーパーマリオ」のリアル版を想定した巨大なフィールドアスレチックで、4つのステージから構成されていた。途中から「泳ぐ」要素も加わり、より多角的な能力が求められるレースにブラッシュアップされている。
参加者は毎回100人。1職種1人を基本とし、元五輪選手、プロスポーツ選手もいるが、番組から生まれるヒーローは無名の情熱家たち。SASUKEにかけ、SASUKEで潜在能力を花開かせた男たちだ。普段は様々な職種で心身を鍛える彼らのチャレンジが見る者の感情を激しく揺り動かす「予期せぬ人間ドラマ」も人気の要因だ。
このSASUKEが「五輪種目になる」と報じられた。正確に言えば、単体で種目に入るのでなく、「近代五種の1種目として採用される可能性がある」という段階だ。
近代五種は、1912年のストックホルム五輪からの正式競技。近代オリンピックの提唱者クーベルタン男爵が古代オリンピックで行われていた『古代五種』に倣って自ら提案したとされ、「キング・オブ・スポーツ」とも呼ばれる。具体的には、水泳、射撃とランニング、フェンシング、馬術の5種目を行い、ポイントの合計で優勝を争う。
ところが近年、「5種目のうち馬術を除外し他の種目を採用すべきだ」という議論が高まっていた。日本近代五種協会の冨安一朗事務局長が話してくれた。
「馬術は経費がかかるだけでなく、国によっては実施が難しく、馬術があるために近代五種の大会が開けない開催地が少なくないという課題がありました」
日本協会以外からの提案で
馬術が、競技人口拡大の障害になるばかりか、大会そのものの実施を阻害している。「馬術があるため、近代五種は持続可能な競技と言えない」と見直しを求める声が高まっていた。背景には、国際オリンピック委員会(IOC)の強い意向もあった。馬術を除外しなければ近代五種そのものを五輪種目から除外する、そんなプレッシャーの中、国際近代五種連合(UIPM)は決断を下した。昨年11月の総会で、馬術の除外を決定したのだ。
歴史的な変更は、近代五種を愛好する選手たちに大きな衝撃を与えた。過去に近代五種で23個のメダルを獲得している強豪ハンガリーの選手たちがIOCに抗議の書簡を送るなどの抗議行動もあった。しかし、決定は揺るがない。背景には、昨夏の東京五輪でドイツ・チームのコーチが、動こうとしない馬にした行為が「動物虐待」と激しく非難された影響もあったようだ。冨安事務局長が言う。
「UIPM総会で除外が決まるとすぐにワーキンググループが立ち上がり、馬術に替わる競技の選定が始まりました。私たちは、軍隊などで行われている障害物レースを提案しました。陸上のグラウンドでできる競技という条件に合わせて考えたためです」
当初は、馬術に替わって自転車が有力視されていた。しかし、トライアスロンとの類似性への懸念から、障害物レースへと候補がシフトしたようだ。そして、有力候補として絞り込まれたのが、日本協会以外から提案されたSASUKEだった。
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