女性初の「棋士」を目指す「里見香奈・女流四冠」 なぜ将棋の男女差はここまで大きいのか

国内 社会

  • ブックマーク

AIの進化がもたらす好影響

 女流棋士の棋力について、十段、王座のタイトル経験者である福崎文吾・九段(62)は、「将棋界では女性にはハンディがあった。男は徹夜で戦い、将棋会館の押し入れで寝たりもしてきたが、女性は風呂にも入らんとあかんでしょうし、家に帰らなくてはならなかった。人との対戦だけの時代ではやはり対局不足にもなる。昔の女流棋士は、男性の解説の聞き手役ばかりやらされたりしていたし」と振り返る。

 そして、女性の棋士を取り巻く環境の変化を指摘した。

「最近は、AIが出てきて1人で自宅にいても高度な研究ができるため、男女の生活上でのハンディの差が少なくなってきたのです。そんな中での里見さんの登場ですね」

 里見自身、最近の進歩についてAIの存在を挙げ、「私自身の棋風と照らし合わせてというのもあるが、AIが良しとしている局面と、自分が指しこなしていける局面が一致したところを落としどころにしているので、すべてをAIに頼っているわけではない」とも話していた。

 先の大山名人の言葉について福崎は、「当時にしては言い得て妙だと思いますね。男はいっぺんに金を使ってしまうようなバクチが好きだけど、女性のほうが守ろうとする性格があって、貯金のように駒を貯め込んでしまうと言いたいのかな」。とはいえ最近は「女性のほうが男より大胆に大駒を切ってくる」と言う人もいる。

 福崎は「里見さんとたまに仕事で一緒になることはありますが、彼女は本当にストイックで、着飾ったりするのも見たことがない。温泉が好きだそうですが、いつも控えめで好感が持てますね。妹の咲紀さん(川又咲紀・女流初段[26])も女流棋士で、彼女はすごい大食漢ですよ。里見さんの編入試験は大いに期待したい。姉妹で将棋を盛り上げてほしいですね」と語る。

「本当に、将棋を指せていることがどれだけ幸せかということに気づいたので、そういうところが大きく違うところかなと思う。編入試験は、5局全体を考えるというよりは目の前の対局に全力を尽くす」と語った里見の大勝負が始まる。
(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。