ドラ1・吉野創士を育てた昌平高・黒坂監督、指導の原点はノムさんだった 厳しい練習で部員から胸ぐらを掴まれたことも
「お前、茶髪でノムさんに怒られてんじゃねえよ!」
野村の監督就任は、黒坂が入社6年目のことだ。27歳。選手としてのピークは過ぎていた。プロへの道はない。どうすればチームに貢献できるか、新たな道を模索していた時期でもあった。
2003年2月1日、中伊豆キャンプ初日。野村との初接触は強烈な記憶として残る。
「僕は若白髪だったんで、普段から黒に染めていたんです。キャンプ初日のアップ中に『さあ頑張ろう』と思っていたら、監督に呼ばれて。『何で呼ばれたか分かるか?』と言われたんです。『いいえ』と答えたら、『茶髪や』と。白髪染めをしていたので、日光に当たると、赤くなっていたんですね」
「茶髪、長髪、ヒゲは厳禁」は野村野球の基本。不本意ではあったが「すいません」と謝った。密着取材をしていた関西の民放テレビ局がそのやりとりを撮影していた。ニュース番組で「指導初日にいきなりボヤキ」と放送されると、関西の友人から電話が止まらなかった。
「お前、茶髪でノムさんに怒られてんじゃねえよ!」
「身体のことを言って、申し訳なかった」
すると翌朝。選手宿舎のエレベーターで野村と偶然一緒になった。あいさつをすると、野村は神妙な表情で黒坂に言った。
「ごめんな、昨日は。白髪だったんだな。身体のことを言って、申し訳なかった」
あのノムさんに謝られてしまった――。
「僕もビックリですよ。なんか申し訳なかった。それがファーストコンタクトです」
夜のミーティング。人としてどう生きるべきか。野村はキャンプ中、熱弁を振るった。
謙虚とは何か?
「相手より常に一段低いところに自分の身を置くことである」
人間が最低限、持っていなければならない3つの要素とは何か?
「節度を持て」
「他人の痛みを知れ」
「問題意識を持て」
黒坂は目を輝かせてノートに書いていった。
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