「イチャつき」が今期イチだった「やんごとなき一族」 本当に愛し合っているように見えた理由は?

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 松本若菜の怪演(庶民排斥を童謡の調べにのせて歌いあげる)が話題になったものの、男尊女卑で底意地の悪い富裕層一族にいびり倒される物語に既視感があったせいか、イマイチ盛り上がりに欠けた「やんごとなき一族」。ヒロインの土屋太鳳が「はばかりながら申し上げます」っつって、徐々に味方を増やして、無事に第1子を出産したところで、このドラマの長所をいまさらながら紹介する意地悪さ。今に始まったことではない。

 いや、なんつっても、太鳳と松下洸平夫婦のイチャイチャタイムがよかった。なんだろうね、あの距離の近さは。毎回、夫婦がイチャつく時間があるのだが、キスするふたり、肩を寄せ合うふたり、抱き合うふたり、見つめ合うふたり。近年まれにみる仲睦まじさがあった気がするのよ。観ていて、気恥ずかしくないし、照れも一切ない。本当にふたりだけの世界と空気を、築き上げていたような。

 キスシーンでもラブシーンでも、「ああ、この人は自分がどう見えるかを考えとるなぁ」というのは伝わってしまうもの。「カッコイイ俺」「美しいワタクシ」が最優先で、そこに愛は感じない。でもこのふたりは、本当に愛し合って慈しみ合っているように見えた。カメラも視聴者もそっちのけで。久しぶりに「いいなぁ、この夫婦」と思えた。

 たぶん相手を人間として敬うだけでなく、男として、女として、愛おしいと思っているかどうか。ドラマに出てくるたいがいの夫婦は、基本的に男とか女とかどうでもよくなっている感じがするんだよな、昨今。

 そういえば、朝ドラ「スカーレット」でも、ヒロインの戸田恵梨香とイチャイチャタイムを朝っぱらからお茶の間に届けた松下。稀代のイチャコラ俳優として、ノミネートしておこう。

 いや、松下だけがよかったわけではない。太鳳もめちゃくちゃ可愛かったし、神々しかった。正直言えば、このドラマの中で最もやんごとなき雰囲気をもっていたのが太鳳だった気もする。なんだかもっさりした衣装で差別化したのも、今ならなんとなくわかる。気品があるからね。隠さないと。やんごとなく見える太鳳が庶民的な食堂の娘の役で、どちらかといえば庶民イメージの松下や木村多江、馬場ふみかに渡邊圭祐がやんごとなき一家。石橋凌と尾上松也と森田甘路(かんろ)は、むっちりボディと顔の面積で傲慢な富裕層っぽかったけど。

 昔、太鳳が演じた「鈴木先生」(2011年・テレ東)の小川蘇美(そみ)を思い出した。品行方正でやや古風な美少女の役がぴったりだった。本来はこっちなんだけど、紅白で謎のコンテンポラリーダンスを披露してからは、なんだか体育会系とか元気ハツラツ系の役が多くなった。実際動きがいいしね。ここでも無駄にアクションシーン(障害物を避けつつ長い廊下を疾走する太鳳)が用意されていたっけ。あれはあれでお見事だけれど。

 そうそう、物語の途中で若菜は老舗和菓子屋の実子ではなく、正妻を追い出した愛人の娘と発覚。要は若菜も庶民という設定に妙に納得。同族嫌悪だったのね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年7月7日号掲載

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