世界のZ世代を東京に呼び込み日本のエンジンにする――原田曜平(マーケティングアナリスト)【佐藤優の頂上対決】
1990年代半ば以降に生まれた「Z世代」の特徴は、心地よくマイペースで暮らそうとする「チル」志向と、旺盛な自己承認・発信欲求を持つ「ミー」意識である。実はこの二つを満たすのに最適な都市が東京だという。若者研究の第一人者がZ世代論を基礎に構築した「戦略的東京一極集中」論。
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佐藤 原田さんの肩書きはマーケティングアナリストですが、特に若者研究で知られ、その分野の第一人者です。2014年にご著作の『ヤンキー経済』が出た時、精神科医で筑波大学教授の斎藤環先生が「この人には時代を切り分ける力がある」とおっしゃったことを覚えています。
原田 そうでしたか。私も斎藤先生を存じ上げているのですが、そういうことは直接言ってくださればいいのに(笑)。
佐藤 あの本によって、従来のヤンキーほど攻撃性がなく、地元で仲間との絆を大切にし、車とショッピングモールを愛する地方の若者たちの姿がクローズアップされました。以前、この欄に登場していただいた投資家の藤野英人さんは、そういった「マイルドヤンキー」に働く場を与えている、旺盛な事業欲を持った地方経営者を「ヤンキーの虎」と名付け、地域の経済構造を分析しました。
原田 そのものズバリの『ヤンキーの虎』という本を書かれていますね。
佐藤 彼らは自動車の整備工場を経営したり、ラブホテルを作ったり、介護事業にも進出するなど、多角経営をして独自の生態系を形成しています。それは原田さんが作ったフレームから発見されたと言っていい。
原田 ありがとうございます。
佐藤 そもそも原田さんの若者研究はどこから始まったのですか。
原田 博報堂に入社して2年目くらいに、博報堂生活総合研究所の所長で、のちに東京経済大学の教授に就任された関沢英彦さんから「若者研究をやれ」と命じられたのです。私としては「ガキには興味ないです。車など大人を対象とした高額品の広告を作りたい」と抵抗したのですが、「これからケータイなど若者中心のデジタルメディアが普及するから、注目を浴びる。やっておいた方が得だぞ」と説得されて始めたんです。
佐藤 関沢さんに、先見の明があったということですね。
原田 ただ若者研究といっても、何をやればいいのかわからない。そうしたら「とにかく声を聞いておいで」と言われて、渋谷のセンター街に行き、地面にベタ座りして若者に声を掛けるところから始めました。「ちょっとお茶おごるから、話を聞かせてよ」という感じで、すごく怪しげですよね。
佐藤 それは文化人類学の参与観察(調査者が対象集団の中で長期にわたって生活しながら、多角的に観察すること)的なアプローチですよ。
原田 でもだんだん顔見知りができていって、友達にファッションがすごい子がいれば連れてきてもらい、地元の友達が面白いと言われれば地方まで会いに行った。一緒にご飯を食べ、時には家まで行って話を聞きました。相当に泥臭い調査です。
佐藤 通り一遍の調査ではない。
原田 実は本気で若者調査を行っている会社ってないんですよ。いわゆるグループインタビューで5人くらいから話を聞き、それを何度かやっておしまい。その程度なんです。
佐藤 普通は生の声を聞いて、エピソードだけ集めると満足してしまう。でも原田さんは、そこから概念を抽出してまとめることができる。
原田 数をこなし、しかも深く話を聞いていると、塊が見えてくるというか、何か抽象的なものが浮かんでくる瞬間はありますね。
佐藤 原田さんの調査は、私がロシアでやっていたことに似ています。地道な形での接触から始めて、機会があればどんどん相手の懐に飛び込んでいく。大使館では、ロシア人と付き合う際は必ず複数でと言われていましたが、私は一人で政権中枢の人物に会いましたし、反体制派のアジトにも行きました。そのくらいしないと核心の情報は得られない。
原田 すごいですね。そのレベルでリサーチしているのは「闇金ウシジマくん」の真鍋昌平先生くらいですよ。ヤクザや半グレに深く入り込んで取材しています。彼は本当のマーケッターだなと思いますね。
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