高齢者は睡眠時間が長いと「死亡リスク1.57倍」? 50~70代が目指すべき睡眠時間とは
早く寝すぎることのリスク
睡眠が長い高齢者の死亡リスクが高いことについて、医療法人RESM(リズム)の白濱龍太郎理事長は、
「睡眠の質が悪いことを時間でカバーしようとする結果、死亡率が高くなってしまうのだと思います」
と語り、こう話を継ぐ。
「若いころのように8時間睡眠を、などと考えていると、かえってブレーキになりがちです。50~70代の方は睡眠時間の目標を6時間前後に設定していただきたい。中高年になるとメラトニンの働きが落ちてくるうえ、ストレスや心配事、運動不足など眠れない要素が加わるものです。ただ、睡眠時間には個人差がありますが、就寝時間が深夜0時をすぎないように心がけてください。それは早期覚醒するのが高齢者の特徴だから。体内時計が前向性といって前にズレるため、夜更かしをすると必然的に睡眠時間の絶対量が減ってしまいます。なるべく早寝をめざすことが大切です」
一方、久留米大学神経精神医学講座主任教授の小曽根基裕氏は、
「睡眠時間には個人差がある。寝つきがよく、日中にだるさや眠気がなければ問題ありません」
と言い、こう指摘する。
「高齢者は寝る間がないほど仕事が忙しいということがほとんどなく、ややもすると寝すぎる人が多いです。たとえば、夜に観たいテレビ番組がないという理由で、早い人は7時や8時にベッドに入る。それから朝6時まで寝ようとすると、睡眠時間は10時間前後にもなりますが、そんなにベッドにいても眠りは浅く、途中で何度も目が覚めてしまいます。70代の平均睡眠時間が6時間のところ10時間前後も寝ようとしても、4時間くらい眠れずにベッドですごすことになり、自分は不眠症だと思って悩み、睡眠薬を服用することになったりするのです」
睡眠時間の記録と昼寝
そこで小曽根氏は、自分が何時に起き何時に寝ついたかを2週間程度、日誌に記すことを勧める。実際に眠っていた時間帯を把握し、それに合わせて床に入るといいというのだ。では白濱理事長は、睡眠の悩みを抱える高齢者にどんなアドバイスをしているのか。
「生活リズムを崩さず、ブルーライトなどの光を浴びすぎない、などです。また、筋肉量の低下に伴って睡眠も浅くなる傾向があるので、適度な運動を勧めています。高齢者は寝る前に子供のことや孫のこと、相続のこと、自分の病気のことなど、あれこれ考えがちですが、考えごとをすると交感神経が刺激され、寝つきによくない。寝る前は瞑想にふけり、頭のなかを空っぽにすることが大切です」
そうすることが、翌朝の休養感につながるということだろう。筑波記念病院の末松義弘副院長は、こうアドバイスする。
「高齢になったら過去の習慣にとらわれず、眠くなったときに睡眠をとることが大切。就寝の1時間半くらい前に入浴を済ませ、部屋の照明を暗くし、ブルーライトを発するスマホを見ないなど、自然に眠くなる環境を整えるのです」
夜寝る前だけではない。
「私は高齢者に15~30分程度の昼寝をとることを推奨しています。夕方、散歩をする方をよく見かけますが、その際に紫外線や直射日光を避けるためにサングラスをかけることが、よい睡眠のために効果的です。日光のような強い光を浴びると、覚醒スイッチが入ってしまうからです。コンビニのような明るい照明も睡眠の妨げになります」
若いころのように眠れる高齢者などいない。ゆったりした気持ちで就寝し、日中にだるさがなければ問題なし。そう考えれば気持ちが軽くなるではないか。
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