高齢者は睡眠時間が長いと「死亡リスク1.57倍」? 50~70代が目指すべき睡眠時間とは
朝の光と食生活
このような変化に対しては、「年を取ったのだから仕方ない」と思える人はいいが、悩んでしまう人も少なくないという。では、高齢者は睡眠とどう向き合えばいいのだろうか。
「睡眠は疲れをとるためのものなので、疲れがとれたかどうかが大切。夜中に何回も目が覚めたか、寝つきが悪いかではなく、昼間にだるくないかどうかを指標にすべきです。だれもが若いころよりも眠りが浅くなるのだから、それを気にするより、昼間にどのくらい元気なのかを気にしたほうがいいです」
では、昼間に元気でいられる睡眠は、どうやって得られるのだろうか。
「やはり日中の活動量が大事なので、昼間に歩いてみることでしょう。それから睡眠のリズムに一番影響を与えているのが、睡眠物質のメラトニンなので、それを分泌させるために、メラトニンの原料になるセロトニンを作り出すことが一番大切。それには朝の光を浴びることです。強いていえば食生活も影響します。タンパク質が不足するとセロトニンが作り出されにくくなるので、そこには注意したほうがいいです」
要は、眠りが浅いことを気にするよりも、昼間によく活動し、セロトニンが出る生活を心がける、ということのようだ。
休養感が死亡リスクに影響?
ところで、「疲れがとれたかどうかが大切」だと和田氏は説いたが、朝目覚めたときの「休まった」という感覚を休養感と呼ぶ。そして、この「休養感」をめぐって先ごろ、興味深い発表がなされた。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所のチームが英国の科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に発表した研究論文によると、
「夜に8時間以上寝床にいても休養感がない65歳以上の高齢者は、7時間しか寝床にいなくても休養感がある人にくらべ、死亡リスクが1.57倍だった」
というのである。同研究所睡眠・覚醒障害研究部精神生理機能研究室の吉池卓也室長が解説する。
「米国の睡眠データを分析し、自宅の寝床ですごした客観的な時間の長さが上位25%に入る高齢者は、中間の50%より死亡リスクが高いとわかったのです。そこに休養感の有無を加えて調べると、寝床で長くすごす高齢者の死亡リスクが一様に高いわけではなく、休養感が乏しい高齢者にかぎって死亡リスクが1.57倍になるという結果でした」
どういうことか。
「年を取るにつれ体が必要とする睡眠量は減り、若いころと同じように睡眠をとろうとしても、眠りが浅く、途切れやすくなります。体が必要とするより長く寝床ですごしている人は、むしろ横になる時間を短くしたほうが睡眠の質が高まる可能性があります。寝床ですごす時間と体が必要とする睡眠量のバランスがうまく取れると、休養感が高まるのでしょう。つまり、睡眠時間とともに睡眠による休養感が大切なのです」
ダラダラ寝るのは逆効果。体が休まったという実感を目安にすべきだという。
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