注射するだけで老化の進行を遅らせられる? 順天堂大チームが開発した「老化細胞除去ワクチン」
顔の片側だけ老化
細胞は生きている間にさまざまなストレスを受ける。いまや目の敵にされている肥満、喫煙、高血糖などがその最たる要因だ。
「最近では新型コロナウイルスの感染が気道や肺の細胞を老化させるとする論文も発表されています」
老化細胞の影響を如実に示す例として有名な写真がある。男性の顔を正面から捉えた写真なのだが、顔の左半分にだけシワが深く刻まれ、たるんでいるというもの。顔の片方だけが古老のように老いているのだ。
「この写真はわれわれの業界ではよく知られています。この方は撮影時69歳でした。アメリカのトラック運転手で、28年間、運転中に左側から日差しを浴び続けたそうです。顔の左側だけ年を取ったように見えるのはそのせいだと考えられます。12年にアメリカの医学誌に掲載された論文では、紫外線ストレスによって顔の片側の老化が早まったと報告されました」
年齢が同じでも若々しい人もいれば、老けて見える人もいるのは当然だが、この写真が興味深いのは、同じ一人の人間でも、ストレスを受けた場所の違いで、老いのスピードが変わることだ。
「生年が同じなら“物理学的加齢”はみな同じ。しかし、老化細胞がどれだけたまったかで表される“生物学的加齢”は生年が同じでも個人差がある。もちろん、我々が重視しているのは生物学的加齢ですね」
老化細胞の蓄積量は測れる?
では、いかに生物学的加齢を測定するのか。糖尿病のリスクを評価するには血糖値が、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを評価するなら血圧というように、特定の指標が生物学的加齢にもあるのだろうか。
「まさに今、老化細胞が体内にどれくらい蓄積しているかを表す指標を巡り、世界中で研究が進められているところです。日本で17年にスタートした国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の『老化メカニズムの解明・制御プロジェクト』や、21年にスタートしたアメリカ国立衛生研究所(NIH)の『細胞老化ネットワーク』の主たる目的の一つがこの指標の確立です」
マウスなら解剖することで、老化細胞がどれくらい蓄積しているかを調べることが可能だ。しかし、生きている人間の場合は血液や尿、唾液といった体液の成分を調べた上で、老化細胞の量を推定するしか方法はない。
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