注射するだけで老化の進行を遅らせられる? 順天堂大チームが開発した「老化細胞除去ワクチン」
なぜワクチンが効果的?
なぜワクチン接種で老化細胞を減らせるのか。普通のワクチンは、毒性を弱めたウイルスなど病原体そのものか、病原体の特徴の一部を持つ。実際に病原体が体に入ってきたとき免疫系の飛び道具「抗体」を速やかに体内に作り出すのが主な目的だ。たとえばファイザー製やモデルナ製の新型コロナワクチンには、ウイルスの表面にある「トゲ」(スパイクタンパク質)を体内で作り出す働きがある。このトゲの形に合わせた抗体を作り、免疫系が病原体を速やかに攻撃できるようにするのだ。
老化細胞除去ワクチンにとって、このトゲに当たるのがGPNMBと呼ばれるタンパク質だ(以下GP)。
「GPを標的とするワクチンの接種により免疫系を鍛え、老化細胞の除去を早めようという発想です」
GPは老化細胞でどんな働きをしているのか。
「まだ仮説ですが、GPはリソソームと呼ばれる細胞内小器官に作用しているのではないかと考えています。リソソームは細胞内で不要になったタンパク質を分解する、いわばゴミ処理場のような機能を持っていますが、GPはその働きを維持できるようにサポートしているのではないか」
老化細胞ではリソソームが弱り気味であるため、GPがお助け隊としてたくさん駆り出されるのかもしれない。だからこそ目印として活用できるわけだ。
当初は受け入れられず…
南野氏が研究を始めたのは約20年前のことだ。千葉大学医学部を卒業し、循環器内科の臨床医として医療現場に立つうちに、心筋梗塞や動脈硬化の治療の難しさを痛感するようになったという。
「急性心筋梗塞で病院に運びこまれてきた患者さんに対して、たとえばステント(筒状の医療機器)で血管を広げる治療をしても、一時的には効果があるのですが、しばらくすると血管の別の場所が詰まって運ばれてくる。そこを治療してもまた別の血管が詰まる」
それはさながら「もぐら叩き状態」である。
「ステント治療は命を救う画期的な技術ですが、長期的に血管を元に戻せるわけではありません。何か別のアプローチはないかと研究しているときに血管の細胞の老化というテーマに出会いました」
だが当初、学会などで研究内容を発表しても「血管と細胞の老化に何の関係があるのか」と取り合ってはもらえなかったという。
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