部活動がなくなる?「教員の働き方改革」最優先で始まった、「部活の地域移行」への違和感
財源はどこに
ある県の民間テニスクラブで長年ジュニア指導を行っている指導者は、
「せっかく硬式テニスも中学の部活動で採用してもらう努力が実りつつあったのに残念。民間のクラブに経済的、地理的な理由で通えない子どもにとって、部活動は硬式テニスに触れる貴重な機会になるはずだったのに。地域に移行すると言っても、テニスの場合は民間のテニスクラブ以外に受け皿も指導者もいないでしょう」と憤りを隠さなかった。さらに、「国が地域移行を命令するなら、十分な予算を出してくれて当然だけど、その財源が本当にあるのだろうか」と疑問を呈する。
施設の整備、人材の育成など、初期費用や運営経費は相当額が必要だろう。この財源をどう確保するか。提言では、「スポーツ振興くじ(toto)」による助成が例示されているが、totoの売上からスポーツ界に還元される予算は例年150億円程度にすぎない。すでに毎年、様々な助成が行われている。この限られた財源から「部活の地域移行」に助成する十分な予算が捻出できるとは思えない。totoの売上は毎年1000億円程度で推移し、昨年度こそわずかに過去最高を更新したものの、大きな伸びが期待できる状況ではない。しかも、150億円すべてを投入したところで、全国の都道府県に分配すれば約3億円程度にしかならない。
新たな人材
市役所でスポーツ行政に携わる担当者は、もっと現実的な課題を打ち明ける。
「地域に移行した場合、現状は指導者の数がまったく足りないことが予想されます。定年退職した元教員たちが最初に候補になりますが、それだけでなく、指導者の掘り起こしが課題になるでしょう。今回の提言で報酬もきちんと保障されるとはいえ、十分な人材が確保できるか、見通しは立っていません」
私は、地域のスポーツ指導員の資質やレベルアップを図る体制づくりが進むのか、心配する。居住地の少年野球チームで父親コーチを経験したが、チームは勝利至上主義に支配され、多少の暴力は当然だとする了解が親とコーチの間にあった。中学で野球部の指導にあたる外部指導員とも交流があるが、彼らは自らの経験や思い込みが強く、いま世間の多くが望む健全な指導感覚を理解しているとは残念ながら感じない。教員より外部指導員の方が勝利至上主義に傾く恐れも強い。日本のスポーツ界に根付くこうした体質を一掃し、「スポーツを楽しむ」「一人ひとりの喜びを大切にする」、新たな人材を全国津々浦々で養成するには相当な覚悟と予算、体制づくりが必須だ。
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