棒高跳び日本記録・澤野大地が“強くなりたい”と思った瞬間 最初は「負けても悔しくなかった」(小林信也)

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元記録保持者の予言

「フワッと浮く感じ。バーを越える瞬間、トランポリンで跳んだ時、一番上で一瞬、無重力になるような、そしてそこから自由落下できる、日常生活にない感覚。ポール一本で自分の身長の何倍もの高さに上がれるのも気持ちよかった」

 バーを越えた時と、落とした時では感覚が違った。

「バーを越えて征服したと感じて、競技場の歓声に包まれて落ちるあの瞬間は本当に至福の時でした」

 背も高い方でなく、力もない澤野の記録は最初から目立ったわけではない。

「高く跳びたいと思ったことはありませんでした」、澤野が意外なことを言った。

「跳ぶこと自体が楽しかった。最初はそれで満足でした。中学3年の時、全国大会に出て10番くらい。でも悔しくない、そこまで強くなりたいと思っていなかった」。しかし、異才ならではの伝説はある。中学2年の時、練習を見た元日本記録保持者の山崎国昭が岩井に言った。

「この子は将来、5メートル80を跳べる選手だ」

 聞いた岩井もビックリしたというが、予言どおり澤野はその高さを跳んだ。

「走り方、ポールの使い方、反発の使い方を見て言われたのでしょうか。たしかに、私の棒高跳びはパワフルでなく、奇麗な棒高跳びです。無駄のない突っ込みから、しなやかな空中動作で美しくバーを越えていく……」

 あのセルゲイ・ブブカは長く硬いポールで6メートルを超えていた。澤野はそれより短く、柔らかいポールを操って、世界に伍していた。パワーを強化した時期もあるが、ケガが多くなったため、美しく効率的に潜在能力を発揮させる方向性に戻した。澤野には、パワーを超える「美しい体の使い方」の才能があった。

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