中国で「特殊詐欺の架け子バイト」で逮捕された元日本人受刑者 地獄の刑務所生活を耐え抜き”奇跡の帰国”を果たすまで
忘れ得ぬ焼肉の味
2日後、空港で警官と別れると帰国便に乗った。軽く出稼ぎをしてくる気分で日本を出てから4年半が経過していた。
「空港には母親と友人が出迎えに来てくれました。家に到着してから、友達と2人で焼肉を食べに行った時の喜びは忘れられません。ビールやレモンサワーを浴びるように飲みました」
半年経過した今でも、食事をしていて感動することがある。
「どんな食べ物もおいしいです。居酒屋で出るきゅうり一つとっても。『出所してから、まだこれ食べてなかったんだ』って感じの発見が今も続いています」
この5年間を振り返ってみて、失ったものは大きいが得たものあると語る。
「自業自得。社会人としての自覚が足りなかった。自分勝手な解釈で生きようとしていた自分を見直しました。今はまだ実家に居候していて充電期間中ですが、そろそろ前を向いて歩き出すつもりです。私は母子家庭で育ったのですが、これからは同じような家庭を支援する仕事をしていきたいと、ぼんやり考えています。中国での経験で我慢も覚えられた。コツコツやるしかない」
中国を憎むような気持ちは一切ないと語る。
「拘置所で知り合った仲間たちは、刑務所に手紙も書いてくれた。彼らがいなかったら、4年半、あの劣悪な環境で生き抜けなかったと思うのです。日本人には考えられないようなひどい環境で生まれ育ち、やむなく犯罪に手を染めてしまった者が多い。でも、中身は同じ人間で、愛嬌もある優しい奴らなんです。中国語が堪能になったし、今後は中国人に何か恩返しをしていきたという気持ちもあります」
Aさんと一緒に拘束された35人の日本人の中には、10年以上の長期刑が下った者も多い。いまも十数人が福建省の刑務所で服役を続けている。
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