食事療法と少量の抗がん剤を使用「がん共存療法」とは 『病院で死ぬということ』著者が自ら実践

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自分の体を使った検証結果を発表

 私は、上記条件を満たすことが可能と思われる方法を探しては、19年9月半ばより、少しずつ、自ら体験することにした。ほぼ3カ月に1回のCT検査の結果を踏まえながら、これはと思う治療法を積み重ねてきた。

 そして、およそ2年後の21年7月、私という個人の体験を通してではあるが、上記条件を満たす三つの治療法を組み合わせた「がん共存療法」(MDE糖質制限ケトン食、クエン酸療法、少量の抗がん剤)にたどり着いた。

 三つのうちの二つは、がんの代謝特性に基づいた既存の糖尿病治療薬や高脂血症治療薬を併用した食事療法、三つ目は、標準治療としての抗がん剤治療とは全く別の発想による、副作用が出ない程度の少量の抗がん剤治療である。

 その間、私の転移病巣は、途中で増大や縮小を繰り返していたが、転移発覚時よりは増大することなく、私と共存していた。そして、22年4月の時点でも、前年の7月時点のまま、縮小状態は続いている。

 私は、そろそろ、上記の経緯や結果を公表する時が来たと考えた。今は共存しているがんが、いつ反乱するかわからない。今できるなら、今やるべきなのだ。そして、『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)としてまとめ、世に問うことにした。

 目的は我が国のがん医療の現実の前で途方に暮れる「標準治療としての抗がん剤治療」を選択したくない人々に、もう一つの選択肢を提案することである。

抗がん剤治療を選択したくない人々の実状

 だが、今回の本の概要が身近な人々に伝わると、私の今後を案じてくれる人も増えてきた。既存の複数の代替療法をベースに、私なりの工夫を加えまとめ上げた「がん共存療法」ではあるが、もちろん、現時点で、エビデンスのあるものではない。

 いずれはエビデンスを得るための取り組みを始めるつもりであるが、現状では、従来の怪しげな代替療法との見分けが難しいと指摘された。さまざまな立場の人々から、批判され非難される可能性があるとの忠告も受けた。

 結果的に「ホスピス緩和ケア」のパイオニアとして築き上げたキャリアに傷がつくと言う人もいた。それぞれが、私のことを親身になって考えてくれての懸念であることは、私にもよくわかっている。

 それでも私は、自らがステージ4の大腸がん患者当事者になることによって、「抗がん剤治療の現状や公的医療保険の不条理」の前で途方に暮れる、「抗がん剤治療は選択したくない」患者さんたちの置かれている実状が、今まで以上に身に染みてわかるようになったのだ。

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