食事療法と少量の抗がん剤を使用「がん共存療法」とは 『病院で死ぬということ』著者が自ら実践
静かな終焉を
抗がん剤治療から解放されることにはなったが、今後どう生きていくのかが課題になった。体調は良好だった。抗がん剤治療を止めてから、1カ月も経過すると、副作用が消失してきたからだ。
だが、抗がん剤に打ち克って両側肺に転移したがんは、これからも増殖し、遠からず私の命を奪うだろう。
まずは体調が良好なうちに、在宅緩和ケアに一緒に取り組んできたケアタウン小平チームの今後のことや、個人的なことも含め関係者に相談しつつ身辺整理をしようと考えた。立つ鳥跡を濁さずだ。
やがて病状が進み、体力が低下してくれば、自力での日常生活は困難になり、誰かの介護を受けながら、一日のほとんどをベッド上で過ごすようになってくる。そして、その状況では、多くの場合、残された時間は1カ月以内なのだ。痛みや全身倦怠感等の、がんによる苦痛症状も増えてくるだろう。
そうなれば、私がライフワークとしてきた緩和ケアの支援を受けて、点滴などの延命治療は受けずに、自然に任せ、静かに終焉を迎えようと考えた。
今後のがん医療の最重要課題
WHOの定義に基づいた適切な緩和ケアを受けることができれば、死までの経過を恐れることはない。
死後は、先だった人々に再会し、心ゆくまで死後の世界を満喫したい。私が看てきた死に直面した多くのがん患者さんと同様に、私も、死後の世界の存在を信じたいと思うからだ。
最後を過ごす場所は、住み慣れた家でもいいが、緩和ケア医としての私を育ててくれた、ラウンジにバーもあり、別荘のような桜町病院の聖ヨハネホスピスもいいなと考えている。
そんなふうに、今後はがんの自然経過に任せようと考えていたが、同時に、こんなふうに自分のシナリオを描けるのは、私が緩和ケア医で、死ぬ時までに自分の体に起こることが具体的に予測できて、その対処法も知っているからだと気が付いた。
そうではない患者さんたちにとっては、ステージ4であることを理解し、やがて来る死を意識していたとしても、全てが初めての経験だ。抗がん剤治療を受けていたとしても、やがて病状が進み、事態が悪化していくことになる日々を、不安の中で過ごす人々も多いだろう。
だからこそ、抗がん剤治療の有無にかかわらず、治癒を前提にすることは難しいステージ4の固形がん患者さんたちの心身の問題を支援する、外来での緩和ケアを保障する必要があるのだ。だが、現時点では、まだまだ不十分であり、今後のがん医療の最重要課題でもある。
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