4万人デモ、スタグフレーションの恐怖 ジョンソン英首相はウクライナ問題でいつまで主戦派を貫けるか
物価高が続く英国で大幅な賃上げを求める鉄道のストライキが起きている。6月21日に始まったストライキに4万人以上の職員が参加し、1989年以来33年ぶりの大規模なものになった。地下鉄を中心に多くの路線で運行がストップし、通勤客など数百万人に影響が及んでいる。
【写真】「場当たり的な政策対応に終始」と批判されるジョンソン首相
インフレを理由に鉄道組合は「最低でも7%の賃上げ」を要求していたが、会社側は3%増の主張を譲らず、交渉が決裂した。両者の主張の隔たりが大きいことから、鉄道のストは断続的ながら数ヶ月続くと言われている。「鉄道に続け」とばかりに教師、看護師、その他の労働者もストを起こす構えを見せており、130万人の公共部門労働者を代表するユニゾンは「ストを準備中だ」との見解を示している。
ストが多発する背景には、英国の実質賃金がインフレの影響で過去20年で最も大きく落ち込んでいるという事情がある。
今年3月から5月にかけて英国企業が賃金交渉で従業員と合意した賃上げ率は前年比4%と過去30年で最高の水準だった(6月21日付ロイター)が、インフレ率(4月は9%)がこれを大幅に上回ってしまったからだ。
ロシアのウクライナ侵攻後、英国でも物価高に拍車がかかっており、22日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年比9.1%増となり、40年ぶりの高い伸びとなった。主要7カ国(G7)の中でも最高の上昇率となっており、今年後半に11%を超えることが予想されている。
タクシー運転手が大量解雇
物価を押し上げた主な要因はエネルギーと食品価格の高騰だ。
英国のガソリン価格は1ガロン当たり約10ドル(米国の2倍)に達している。市民によるガソリンスタンドでの燃料の盗難事件は1日当たり最大3000件に上り、タクシー運転手や配送業従事者が大量に解雇されている事態も発生している。
英国の食品価格の上昇率は夏場に最大15%に達し、「来年半ばまで高止まりする」との予測が出ている(6月16日付ロイター)。
これらに加え、英国でインフレが激化している要因に雇用問題が挙げられる。
ブレグジット(欧州連合(EU)からの離脱)によって英国と欧州大陸間の労働力の自由な移動がなくなったが、英国の雇用主は労働力の代替先を見つけることができないでいる。英国の労働力不足は主要先進国で最も深刻だ。約100万人分の労働力が不足している状況下で物価の高騰は労働力不足に拍車をかけている。
ジョンソン首相は「新型コロナのパンデミックから回復途上にある企業活動などに大きな打撃を与えることになる」と懸念しているように、ストの多発は今後の経済活動にとって大きな足かせになることは間違いない。
英国の国民がEU離脱を決めてから6年が経とうとしているが、市場関係者の間で「英国経済は危機的状況に陥るのではないか」との疑念が深まっている。年初来からポンド安が続いており、輸入インフレ圧力が強まっている。今年第2四半期の国内総生産(GDP)はマイナスになる可能性が高まっているが、イングランド銀行(中央銀行)はインフレ抑制のために利上げを続けざるを得ない。
最大の貿易パートナーであるEUとの関係もこのところ悪化しており、労働力不足はさらに悪化するかもしれない。英国経済は主要国の中でスタグフレーション(不景気の下での物価高)に陥るリスクが最も高いとみなされている。
ロシアのウクライナ侵攻とこれに対する西側諸国の制裁により、世界経済は深刻なダメージを受けている。中でも影響が大きいとされる欧州では「交渉を通じて早期に紛争を終結させるべきだ」とする和平派と「ロシアに大きな代償を払わせるために紛争を続けるべきだ」とする主戦派の間で意見の相違が目立つようになってきている。
主戦派の代表格は英国だ。英国はロシアの侵攻以降、米国に次いで多額の支援(41億ポンド(約6800億円))を行っている。
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