総合菓子メーカーからウェルネスカンパニーに生まれ変わる――太田栄二郎(森永製菓代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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鮮度マーケティングの追求

佐藤 どこの会社でもいまの社長は、こうした激動の時代の舵取りをしなければなりません。太田社長の経営判断の基準は、どんなところにあるのですか。

太田 やっぱり私は「強みを生かす」ことを意識的に行っていますね。つまり売れるものを売る。かつて弊社の営業は、売れるものから売りづらいものまで一様に営業をかけてしまう傾向があったのですが、それよりも、売れるものをもっと売ろうという話をしてきました。

佐藤 そういう形で伸びてきた商品にはどんなものがありますか。

太田 先ほどのinゼリーもそうですし、やはり最大のヒットはチョコモナカジャンボだと思います。

佐藤 我が家の冷凍庫にもあります。

太田 ありがとうございます。チョコモナカジャンボは、弊社商品の単品の中で一番売れている商品なんです。

佐藤 それは金額ベースですか、個数ベースですか。

太田 両方です。冷凍庫という設備が必要な商品にもかかわらず、一番売れています。今年発売50周年を迎えていますが、この20年間ずっと伸びてきた。昨年は前年比97%ほどだったのですが、それでもダントツで、年間2億個ほど売れています。

佐藤 基本的には夏の商品ですから、すごい数字ですね。前にこのコーナーで日本気象協会にうかがった時、森永製菓のアイスは、彼らが提供する気象データによる需要予測を取り入れているという話を聞きました。

太田 そうですね、需要予測も含めて、鮮度マーケティングが大きく寄与しました。本来、アイスには賞味期限がありません。ですから作りだめをするのが当たり前の商品なんです。当然、暑くなるにつれて売れますが、夏に合わせた製造能力を持つと、冬には赤字になります。だから普通は冬に作りだめをしておき、夏に売る。ところが、チョコモナカジャンボはそうしない。鮮度にこだわる。

佐藤 あのパリパリ感ですね。

太田 その通りです。普通のモナカアイスはクリームの水分がモナカ部分に移るので、時間が経つとモナカがしなっとしてきます。それを私どもではモナカの内側にチョコレートコーティングをスプレーして隙間なく覆うことで、吸湿を遅らせるようにしています。チョコモナカジャンボだけでなく、バニラモナカジャンボも同様です。でも、それだけではない。やっぱり作り立てを早く食べてもらいたいので、製造後5日以内の工場出荷を目標に、製造を調整しているのです。

佐藤 作りだめをしない上に、頻繁に工場を動かしたり、停めたりするのですか。

太田 はい、この10年くらいで製造の瞬発力を増強し、年間でフレキシブルに対応できる製造態勢を整えてきました。だからモナカアイスは数あれど、ここまでモナカの鮮度を追求しているのは弊社だけです。そうしたやり方ができるのは、約2億個という販売量があるからです。

佐藤 同じモナカアイスでも、森永製菓のジャンボは独特の商品なのですね。

太田 もっとも、私たちが鮮度にこだわっても、お店の中で滞留してしまってはどうしようもありません。ですから販売量を追わないで在庫管理を徹底して鮮度を追う。時には得意先からの注文に対して調整をかけて出荷することもあります。また、我々は鮮度を売っているわけですから、作り立てと2カ月経ったモナカを食べ比べてもらったりもします。すると、大きく違うことがわかる。

佐藤 そうした啓発活動もしてきたわけですね。最初からヒット商品だったのですか。

太田 そうではないですね。2005~06年くらいから伸びてきました。そして量が増えて、こうしたマネジメントができるようになったんです。

佐藤 その陣頭指揮をとってこられたのですか。

太田 2009年からアイスの事業本部長をやりました。その時には、弊社のアイスを菓子素材と組み合わせたものに特化することにし、カップ入りのバニラアイスや、みぞれのアイスを出さないと決めました。いわば総合アイスメーカーの看板を下ろし、ジャンボを中心とした、当社の強みが生かせるラインアップに特化した。その結果、どんどん伸びていったんです。

佐藤 つまり選択と集中ですね。

太田 もともとモナカアイスが強かったこともあります。弊社は、アイスのメーカーの中ではSKU(Stock Keeping Unit=在庫管理上の品目数)がとても少ない。またサブフレーバーもほとんど出していない。その中で売り上げが伸びたので、非常に経済的効率がいいんです。

佐藤 しかも業界の常識を打ち破る独自のやり方です。こうなると、他社は追随できないでしょうね。

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