巨人で屈辱の“3軍落ち”から大復活 シーズン中のトレードで開花した3選手
2000万円の“特別ボーナス”
トレードはシーズンオフに限った話ではない。開幕直前の駆け込みトレードもあれば、シーズン途中に成立するトレードもある。現在、首位獲りを狙う巨人も、昨年の中田翔をはじめ、近年はシーズン中のトレードを活発に行っており、今季もトレードに動く可能性は強い。そして、過去においても、シーズン途中のトレードで花開いた選手は多数に上る。【久保田龍雄/ライター】
西武では7年間も出場機会に恵まれなかったのに、巨人移籍後にブレイクし、年俸の2倍にあたる2000万円の“特別ボーナス”を手にしたのが、大久保博元である。
1985年に強打の捕手としてドラフト1位で西武に入団した大久保は、1989年に当時イースタン・リーグ記録だった24本塁打、70打点で“2軍の二冠王”に輝いた。
だが、1軍では不動の正捕手・伊東勤が他の追随を許さず、ファーストも清原和博がいたため、DHや代打など出番が限られ、トレードの前年も出場わずか5試合。ディフェンス重視のチームにあって、100キロを超える肥満体型もネックとなり、毎年のように減量を命じられていた。
そんな不遇の日々のなか、「今、西武でチャンスがなくても、ほかに11球団もある。一生懸命やっていれば、誰かが見ていてくれる」と自らに言い聞かせた大久保は、92年の春季キャンプで早出特打ちを続けた努力が報われ、「いち・にい・の・さん」で打つタイミングを会得した。以来、絶好調を維持し、1軍昇格を打診されると、「今が売り時」とトレードを直訴した。
「なんだ、デーブ、たった1枚か」
同郷の大先輩にあたる根本陸夫管理部長も「よく7年間辛抱した」と親身になって動いてくれ、5月11日、巨人・中尾孝義との交換トレードが決まる。
自著『一発逆転 プロ野球かくも愉快な仲間たち』(新潮社)によれば、巨人に移籍直後、藤田元司監督は「太っていることなんか気にしなくていいから」と励まし、遠征先の宿舎で大久保が1枚のステーキを小さく切り、遠慮して食べているのを見ると、「なんだ、デーブ、たった1枚か。それじゃ足りないだろう」と2枚追加してくれたという。
「この監督のためなら死ねる」と涙の塩味がまじったステーキ3枚を平らげた大久保は、オールスターまでに12本塁打を放つ一方、強気のリードで投手陣の持ち味を引き出し、6月の月間MVPを受賞した。天性の明るい性格で、下位に低迷していたチームのムードメーカー的存在になり、米国留学時代に覚えた英語で、モスビーら助っ人たちの良き話相手にもなった。
そんな多方面にわたる貢献度が評価され、7月24日、移籍選手では前代未聞の2000万円の特別ボーナスが贈られた。
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