「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」室越龍之介が語る街歩きと歴史学習の“意外”な共通点
現実感を持たない「東京」という街
大人気ラジオ番組「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」でパーソナリティーと調査を担当する室越龍之介さん。歴史を面白くかつディープに伝え、リベラルアーツの魅力を教えてくれる彼ならではの、東京散歩の様子とは。
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九州生まれ、九州育ちの僕にとって、東京はイマジナリーな都市だ。いつ行っても工事中で、人が多い。巨大でアップダウンの多い地下鉄の駅。方向感覚を狂わせる微妙にカーブする道。びっしりと続く建物。印象を持ちにくい巨大さだ。月に1回は、東京を訪れるようになった今でも、僕にとって現実感のない街だ。
初めて東京に滞在したのは、2008年の4月だった。就職活動のためにマンスリーマンションを借りていた友人のところに2週間ばかり転がり込んだ。僕も就職活動と称して上京していたが、大学院への進学を決めていたので東京滞在も就職活動も物見遊山であった。友人の借りたマンションは赤羽にあった。僕はその時に赤羽という地名を初めて知った。
時間はあるが金はない。おまけに土地勘もない。友人は朝から晩まで職を探し回っている。僕はすることがないので、なんとなく駅へ行き、なんとなく知っている地名であった上野を目指して、京浜東北線に乗った。鳥類の雛が初めて見たものを親と思い込むというが、僕は14年経った今でも京浜東北線になんとなく親しみを感じる。
「頭の中の東京」と「目の前の東京」が重なる瞬間
上野駅で降りてから上野公園を歩いてみた。園内マップを見てみると「不忍池」と書いてある。僕は「こころ」だな、と思った。「三四郎に出てきた上野精養軒もある。ということは本郷まで歩いて行けるのだな」と考えながら、ブラブラと散歩した。思えば、三四郎も九州から出てきた人間である。東大本郷キャンパスを見物し、「湯島天神というのも夏目漱石の何かで読んだ気がするぞ」とそちらに歩いて行き、こちらが御茶ノ水か、神田かと思いながらずんずん南下して行き、古本の聖地と聞いていた神保町に着いて、一冊の古本を買った。
その日、朝から夕暮れまで夏目漱石の本で知った地名をたどりながら歩いた東京の街は少し実体を持った。頭の中の東京と目の前の東京とが重なって、一つの実感のある像を結んだ。
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