井上康生は「コンビニ」で何を買う? レジェンド柔道家が選ぶ3つの商品
「あなたとコンビニとニッポン」第1回(前編)井上康生×渡辺広明
全国約5万8000店舗、年間155億人強が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う──。
記念すべき第1回目のゲストは柔道家の井上康生氏。現役時代はシドニー五輪男子柔道100キロ級で金メダルに輝き、指導者としてはリオデジャネイロ五輪と東京五輪の2期にわたって柔道全日本男子の監督を務め、メダルラッシュに導いた。そんな柔道界の功労者が、コンビニとの“ストイックな関係”を教えてくれた。(全2回の1回目)
減量期間中のコンビニは地獄!?
渡辺広明(以下、渡辺):まずは小さい頃のコンビニの記憶からうかがいたいのですが、康生さんの少年時代は1980年代ですよね。当時、近所にコンビニってありましたか?
井上康生(以下、井上):僕は中学時代まで宮崎で過ごしていて、すでにコンビニはあったと思うんですけど、ほとんど利用した記憶がないんですよ。当時は買い物と言えば、コンビニよりもスーパーのイメージが圧倒的に強かったです。
渡辺:では、コンビニを利用するようになったのは高校からですか?
井上:そうです。高校は神奈川県の東海大相模に進学しましたが、そこで初めて「何かすげえ便利な店があるな」と認識した感じです(笑)。高校時代は寮生活だったので、朝昼晩の三食とも寮で食べられましたが、やっぱりそれだけじゃ足りない。補食として練習前によく利用していました。
渡辺:コンビニで「補食」という表現はアスリートならではかもしれません。当時は何を買っていましたか?
井上:おにぎりが多かったです。「効率よく練習するためのエネルギー補給」ですね。
渡辺:よく利用していたコンビニチェーンはどこでしょう。
井上:どこだったかな?…おそらく高校の前にあったスリーエフ(現ローソン・スリーエフ)だと思います。
渡辺:スリーエフ! 時代と地域を感じられる回答です。スリーエフは神奈川県横浜市生まれのコンビニですから。
井上:そうだったんですね。スリーエフでは、よく夏場の練習後に「シャーベット」を買っていた記憶があります。今だったら岡田先生(※岡田隆日本体育大学体育学部教授・ボディビルダー。井上さんと渡辺さんの共通の友人)に怒られると思いますけど(笑)。
渡辺:確実に怒られますよ。以前、僕はカキフライにタルタルソースをつけて食べただけで岡田先生に怒られましたもん。「衣がついた揚げ物に、さらにタルタルをつけるなんてあり得ない!」って(笑)。それにしても、運動部の高校生って食欲旺盛でジャンクフードも大好きなイメージがありますが、高校時代の康生さんはお菓子やジュースなどを買わなかったんですか?
井上:もちろん買ったことはありますが、決して頻繁ではなかったですね。当時から栄養学を学ぶ機会があり、食べ物ならば「練習後にはたんぱく質が必要だから、お菓子よりも肉や魚」だとか、飲み物ならば「カルシウムを摂りたいから牛乳やヨーグルト」や「ビタミンを摂りたいから果汁100%」など、体作りを優先した選択を心掛けていました。とにかく「柔道が強くなりたい!」というエネルギーに満ちあふれていた時代で、大学進学後も変わらなかったと思います。
渡辺:康生さんは摂生されていたから大丈夫だったと思いますが、体重制限があり、減量も必要な柔道家にとって、コンビニは誘惑の多い場所かもしれません。
井上:減量期間中のコンビニは“地獄”でした(笑)。ただ、減量が終わっていち早くエネルギーを摂る必要があるときは、気軽に行けて品揃えも豊富なコンビニは重宝されると思います。
渡辺:康生さんでも減量中のコンビニは辛かったんですか?
井上:少なからず食欲との戦いはありました。減量中は自分でコンビニに行かず、誰かに買い物を頼む選手もいましたよ。
渡辺:多くの消費者にとっては「近くにあればありがたい存在」であるコンビニが、減量中のアスリートにとっては「足を踏み入れることすら躊躇う場所」になる、というのは何とも興味深い話です。
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