JR上野駅に到着する電車はなぜ停車直前に大失速するのか 櫛型ホームの奥深き世界
どちらに軍配が?
列車の停止位置が、線路の行き止まりから50m手前の場合と直前の0mの場合とで、列車がブレーキをかけ始めたときから停止までの時間はどのくらい違うのか、比べてみよう(このあとの計算が面倒な方は、10数行先の結論部分まで読み飛ばしてください)。どちらのケースでもブレーキをかけ始めたときの速度は時速60km、減速度は1秒につき時速3km分速度を下げると仮定し、行き止まりの直前である0mの位置に止める場合は、線路の行き止まりの手前50mの位置で時速10kmに速度を下げるものと考えた。
まずは線路の行き止まりの50m手前の位置で列車を止める場合だ。時速60kmでホームに進入し、1秒につき時速3km分の減速度でブレーキをかけると、停止までに要する時間は20秒となる。
続いては線路の行き止まり直前となる0m手前の位置に列車を止めるケースを考えてみよう。時速60kmから先ほどと同様の減速度で時速10kmまで速度を落とすのに要する時間は16・7秒となる。時速10kmまで速度が下がった際にそのままの減速度でブレーキをかけると4・6m先で列車は止まり、所定の停止位置までまだ45・4mも残ってしまう。ということで、時速10kmで45・4m進み、最後の4・6mで1秒につき時速3km分速度を下げると考えた。
時速10kmで45・4m進むときに要する時間は16・3秒と結構長い。そして時速10kmからブレーキをかけて4・6m先で止まるまでの時間は3・3秒となる。つまり、16・7秒に16・3秒と3・3秒とを加えて、停止までに要する時間は36・3秒だ。行き止まりの手前50mに止めたときの20秒と比べると16秒余り多い。
結論としては、線路の行き止まりのギリギリで止めることにすると、電車が止まるまで16秒ほど余計に時間がかかってしまう。
26分40秒も
人が歩くときのスピードは時速5km前後で、50m進むには36秒を要する。したがって、16秒余り列車に乗っている時間が延びても、線路の行き止まりの直前まで列車が進んでくれたほうがありがたいと思われるかもしれない。
けれども、鉄道会社にとっては問題が生じる。駅での折り返し時間が同じだとすると、列車の停止位置が線路の行き止まりの手前50mの場合と直前の0mの場合とでは、単純に列車の運転時間が16秒延びる。たかが16秒とはいえ、大都市では1日に多数の列車が折り返す。仮に100本の列車が1日に発着するとして、16秒の100本分で1600秒、つまり26分40秒も増えてしまう。
これだけの時間分だけ列車が駅構内に滞在しているので、列車を増発するには駅に敷く線路の数を増やさなくてはならない。地価の高い都心部で線路1本を増設するのは大変だ。線路の行き止まりから50m手前に列車を止めることで、駅構内に滞在する時間を縮めるほうが鉄道会社には都合がよい。
世知辛い話だけれども、列車が混雑しているのに本数が増えないとか、駅構内の線路を増やすために運賃の値上げといった事態が起きるよりはよいと考える人も多いはずだ。そうは言っても櫛型の駅のなかにはホームをこれ以上伸ばせない駅も結構あり、停止まで時間がかかる駅をなくすことは難しい。
終点となる駅でもホームが櫛型に並ぶ構造ではないのであれば、停止位置をできる限りホームの先端まで設定し、なおかつ列車が停止するまでの時間を延ばさない方法はある。ホームの先端からさらに先に線路を敷いて行き止まりを置けばよいのだ。
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