尹錫悦はなぜ「キシダ・フミオ」を舐めるのか 「宏池会なら騙せる」と小躍りする中韓
文在寅にさえ負けたワクチン
――それで日米首脳会談をなかなか開いてもらえなかった……。
鈴置:それもありましたし、韓国はワクチン供給からも日米関係の悪化を嗅ぎ取りました。2022年1月14日、韓国では3回目のワクチンを接種した人が全人口の43・7%にのぼりました。一方、同じ日に日本は1%に満たない0・9%に留まりました。
日本ではこの数字は話題になりませんでした。なぜか、日本のメディアは岸田政権に優しい。安倍政権や菅義偉政権だったら「韓国に負けている」とお昼のワイドショーや左派系紙が大騒ぎしたでしょう。
しかし、韓国人はこういうところをよく見ています。中央日報のイ・ヨンヒ東京特派員は「【グローバルアイ】『むしろ菅前首相の方が良かった』」(2月8日、日本語版)で、日本の3回目のワクチン接種の遅れを指摘しました。
この記事は「キシダ政権になって米国との関係が悪化したからだ」と断定はしていませんが、韓国人読者なら誰でもそう思います。
2021年末の韓国では、反米従中の文在寅(ムン・ジェイン)政権だから米国から思うようにワクチンを貰えない。効果が長続きするファイザーのワクチンを菅時代に確保した日本がうらやましい――との声が上がっていたのです(『韓国民主政治の自壊』第1章第2節参照)。
今や「米国から嫌われているキシダ」に対し、こちらは「親米保守の尹錫悦」だ――との自信から韓国は「米国」で日本を脅すようになったわけです。
EEZでも嵌められた
――岸田政権はそれに怯んでしまった……。
鈴置:そのとおりです。韓国側の姿勢に具体的な変化がないのに、岸田首相は米国に怒られまいと譲歩してしまった。4月26日、尹錫悦氏が派遣した政策協議代表団と面談した岸田首相は「日韓関係の改善は待ったなし」と発言。尹錫悦大統領の就任式に林外相を送り、親書まで持たせるという、前のめりぶりを発揮しました。
これで韓国は「少々強引なことをしてもキシダは後戻りできない。何せ、日韓関係改善を公約したのだから」と考えた。そして、尹錫悦政権は韓国の海洋調査船を5月9―12日と5月28―30日の2回に亘り竹島周辺の日本のEEZ(排他的経済水域)に送り、活動させたのです。
日本の外務省は1回目に関しては、日本政府の問い合わせに対し韓国政府が「調査は実施していない」と答えたので抗議しなかったと説明しました。
しかし、自民党の中からは「林芳正外相が尹錫悦大統領の就任式に参加していたのに抗議しなかったので、調査していなかったことにして、もみ消しを図ったのではないか」との疑いの声が高まりました。2回目は、韓国は調査を認めたうえ「正当な活動」と日本の抗議を一蹴しました。
韓国は将来、竹島の帰属が国際司法裁判所で争われた際に「日本も韓国の領有を認めた」証拠として使うつもりでしょう。「韓国が周辺海域で調査を実施した時、日本の外相は韓国の大統領と会っていたが抗議しなかった」と言えるのですから。
「抗議しなかった」ことを日本政府が隠すと見込んで、それを利用する作戦でもあったと思われます。韓国は「抗議しなかったとばらすぞ」と岸田首相や林外相を脅す材料を確保したのです。
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