レスリング東京五輪金メダル「川井」に勝利した 慶応大「尾崎野乃香」 図らずも2人の口から同じ言葉が

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「姉妹で五輪連覇」を目指す川井

 尾崎は東京都出身。7歳からレスリングを始めている。JOCエリートアカデミーで鍛え、2018年の世界ユース五輪では57キロ級で優勝した。「勉強も好き」だそうで、昨年、受験勉強をして難関の慶応大学に入り、環境情報学部で勉強している。文武両道の姿勢について問われると、「レスリングは大好きで1番だけど、レスリングをやめてからの人生のほうが長いので、4年間でいろいろ勉強したい」と話した。

 昨年12月の全日本選手権の優勝は、慶応大学としてはなんと62年ぶり。慶応大学レスリング部は1934年創設。2016年、東日本学生リーグに44年ぶりに復帰するなど活気づいている。もちろん、その先頭にいるのが2年生の尾崎だ。

 今大会は直接、パリ五輪の選考には結び付つかず、12月の全日本選手権(天皇杯)から選考が始まる。久しぶりの公式戦とはいえ、少し不在にしていただけで台頭してくる新鋭には、川井も怖さを感じただろう。会見で川井に尾崎の印象を訊くと、「まだ終わったばっかりなので、ビデオとかで研究してみたい」と答えていた。

 さらに「今日は出てよかった。気持ちが入りきらない状態が続いていたので、ここまで来た自分を褒めてあげたい」と努めて明るく振る舞ったが、パリ五輪予選の1つとなる12月の全日本選手権に向けて気持ちを引き締めたことだろう。

 川井は、五輪史上、前例がないと思われる「姉妹で五輪連覇」を目指し、東京五輪女子57キロ級金メダリストで姉の梨紗子(27)=サントリービバレッジソリューション=と二人三脚での勝負が始まるのだ。取材を終え記者席から移動すると、さっきまでマットサイドで妹に声をかけていたはずの梨紗子が、スタンドで先月産まれたばかりの可愛らしいお子さんにミルクを与えているのが見えた。

 一方の尾崎は「62キロ級は絶対に(パリ五輪の出場権を)自分が守りたい」と決意を語っていた。

 この日、理由は全く違うが、期せずして尾崎、川井と2人の口から「自分を褒めてあげたい」という言葉が飛び出した。この言葉はアトランタ五輪(1996年)で3位になった女子マラソンの有森裕子が、ゴールイン直後に「初めて自分で自分を褒めたいと思います」との言葉を発して以来、アスリートなどの間で流行になった。パリ五輪で有森のような感動的で深みのある「褒めてあげたい」と言えるのは、果たしてどちらだろうか。
(敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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