試合再開の条件として「私が辞めるから」と申し出た審判も……ファンが激怒した“世紀の大誤審”

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「アンパイアで負けたと言われても仕方がない」

 リプレー検証が導入されていれば防げたはずの誤審が浮き彫りになったのが、2011年4月20日の阪神対巨人である。

 2対2の7回、阪神は鳥谷敬の犠飛で1点を勝ち越し、なおも2死一、三塁のチャンスで、ブラゼルが二塁後方にフラフラと飛球を打ち上げた。

 脇谷亮太が背走しながら捕球したかに見えたが、直後、ボールがグラブからこぼれ落ち、グラウンドに落下した。VTRにもボールが地面に落ちてバウンドする様子がはっきり映し出されていた。

 だが、土山剛弘一塁塁審の判定は「アウト!」だった。位置的に死角だったことに加え、脇谷が右手でボールを持ち、「捕った!」とアピールしたので、アウトと思い込んでしまったようだ。

 ふだん抗議をしない阪神・真弓明信監督もさすがに色をなし、「微妙(なプレー)じゃないだろう。(土山塁審は)たぶん見えていない。見えてる人が判定してほしい」と訴えたが、「今日は彼が見えていたという判断です」(杉永政信球審)と却下されてしまった。

 この結果、阪神の4点目は幻と消え、誤審を境に流れは一気に巨人へ。1点を追う巨人は8回2死からこれまた微妙判定の幸運な安打に乗じて逆転勝ち。阪神は「アンパイアで負けたと言われても仕方がない」(木戸克彦ヘッドコーチ)悔しい敗戦に泣いた。

 もし当時リクエスト制が導入されていたら、ブラゼルの二飛はセーフに覆り、脇谷が「VTR? テレビの映りが悪いんじゃないですか」の発言で阪神ファンを敵に回すこともなかっただろう。

“幻の決勝弾”

 同様に、90年4月7日の開幕戦、巨人対ヤクルトで、篠塚利夫が8回に右翼ポール際に放った“疑惑の同点2ラン”も、リプレー検証なら、判定はファウルに覆っていたはずだ。

 誤審が回りまわって、クライマックス・シリーズ進出チームがひっくり返る珍事となったのが、2015年9月12日の阪神対広島である。

 2対2の延長12回、広島は1死から田中広輔が左中間に高々と飛球を打ち上げた。センター・俊介がフェンスに激突しながら必死にグラブを差し出すも届かず、打球はフェンスを越えたあと、グラウンドに跳ね返ってきた。

 だが、判定は本塁打ではなく、「インプレー」となり、田中は三塁でストップした。緒方孝市監督がビデオ判定を要求したが、責任審判の東利夫三塁塁審は「バックスクリーン方向からのリプレー映像を3回見て確認しました。フェンス上部のラバー部分に当たり、ドンと落ちたと判断しました。フェンスを越えていないと3人で判断が一致しました」と説明し、三塁打と判定した。

 ところが、田中の打球は、フェンスからスタンドに向かって直角に張られた侵入防止柵のワイヤに当たっており、明らかに本塁打だった。甲子園特有の構造を十分把握していなかったか、もしくは、「ワイヤに当たるはずがない」という先入観が誤審を招いたとみられる。

 その後、広島側の確認要求に対し、NPB側も誤審を認め、異例の謝罪を行ったが、試合がすでに2対2の引き分けで成立していたため、記録は訂正されず、“幻の決勝弾”となった。

 同年、広島は69勝71敗3分で全日程を終了。皮肉なことに、70勝71敗2分の阪神にわずか0.5ゲーム差の4位で、3年連続のクライマックス・シリーズ進出を逃した。

 審判団が映像を確認したにもかかわらず、“世紀の誤審”になったという意味でも、ビデオ判定も絶対ではないことを痛感させられた“事件”だった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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