マイルド貧困に陥る“高所得”子育て世帯 少子化を加速させる欠陥制度の全貌

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識者は「生存権侵害の可能性」

 所得制限撤廃を訴え、政府へ要望書の提出を予定している「子育て支援拡充を目指す会」代表の工藤健一氏に話を聞いた。

「年少扶養控除は憲法第25条の“生存権”を保障する目的で設けられた基礎的人的控除のひとつですが、この代替である児童手当が特例給付の名のもとに減額されていることは、生存権を侵害している可能性があります。

 年少扶養控除の廃止と児童手当の所得制限に伴う負担感の増大は、世帯に占める子どもの数が多いほど影響が大きいことから、特に多子世帯にとって顕著です。保護者は所得に応じた累進課税による納税の義務を果たしており、税負担の大きい世帯が子育て支援をまったく受けられないことは、公平性に著しく反しています。上記を踏まえて、2022年10月からの特例給付の一部廃止を延期し、特例という名の減額をやめ、一律給付にしていただきたいです」

 さらに工藤氏は、こうも指摘する。

「子育ては本来、親が子どもを妊娠・出産してから子どもが成人するまで続くものであり、子育て支援はその長い期間を通して必要なものです。個々の制度を個別に議論することや、場当たり的な制度の見直しをやめ、妊娠・出産から成人・社会進出するまでを包括する恒久的な“総合パッケージ”としての子育て支援制度を実現していただきたいですね。

 子育て支援制度の受益者は“子ども”自身であり、子どもの受益を保護者の所得によって差別することは“法の下の平等”に反しています。日本の子育て支援制度において、中高所得層を支援から排除するという考えが広まっていることは、今後の日本社会のあり方にとって問題です」

 税負担と社会保障負担の合計が国民所得に占める割合(国民負担率)は、2022年度には46・5%となる見込みであり、財政赤字を勘案した潜在的国民負担率は56・9%になると見込まれる。

 さらに、国民負担率(租税、社会保障負担)についてOECD(経済協力開発機構)加盟諸国の状況(2019年度)を見ると、最も重いのはルクセンブルクで93・4%、次いでフランス=67・1%、デンマーク=66・2%、オーストリア=62・4%、ベルギー=62・1%、などという状況だ。

 工藤さんはこの状況を懸念している。

「日本における子育て環境はこれでいいのでしょうか? 先日、米テスラ社CEOのイーロン・マスク氏が『出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう』と発言しました。まさにその通りで、現在は高所得層に所得制限が設けられていますが、国民負担率が上がることで、それはいずれ中間層にまで広がるでしょう。経済的負担が益々増加し、少子化は進むばかりです」

中西美穂(なかにしみほ)
ジャーナリスト。1980年生まれ。元週刊誌記者。不妊治療で授かった双子の次男に障害が見つかる。自身の経験を活かし、生殖医療、妊娠、出産、育児などの話題を中心に取材活動をしている。障害児を持つオンラインコミュニティ・サードプレイスを運営。

デイリー新潮編集部

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