マイルド貧困に陥る“高所得”子育て世帯 少子化を加速させる欠陥制度の全貌

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補助の有無で“逆転”世帯も

 所得制限は、それぞれの元となる手当支出の制度ごとに所管する省庁が異なる。そこで、何を基準に所得制限を設けたり、額を決めたりしているのか、まずは児童手当を所管する内閣府の担当者に話を聞いてみたのだが、「(児童手当は)9割の方が対象という考え方です」と答えるばかりなのだった。

 ご存じのとおり、内閣府の言う「手当対象として想定する9割」と「そうでない1割」を分ける境目は、ざっと年収1000万円前後だ。他の制度でも多少の差はあるにせよ、年収約1000万円が所得制限を受ける/受けないのラインとなっていることが多い。しかし、年収2000万円であろうが3000万円であろうが1億円であろうが、1000万円を超えた世帯については一律同じだというのもおかしなことではある。

 話は少しさかのぼるが、2010年の税制改革で、納税者に16歳未満の扶養親族がいる場合に適用される所得控除が廃止となった。すなわち、16歳未満の扶養親族1人あたり年額38万円あった「年少扶養控除」が、子ども手当の導入に伴って廃止されたのである。子ども手当は当初、所得制限なしに支給する構想だったが、財源の問題を解決できず、結果的に所得制限が設けられ、児童手当と名前を変えて現在に至る。そして、今度はここにきて児童手当の減額や廃止がなされるわけだから、高所得層に分類された家庭にとってはどう見てもこの間、ただの増税となっている。

 それだけではない。16歳以上23歳未満の高校生や大学生などの子どもを持つ教育費がかさむ世帯の税負担を軽減するために創設された、1人あたり63万円の特定扶養控除も、次に見る高校無償化(高等学校等就学支援金)制度とともに、16歳以上18歳未満の控除額は63万円から38万円に減額され、こちらも高所得層は増税を被る形となったのだ。

 高校無償化は2010年にスタートした制度だ。両親と高校生、中学生の4人家族で、両親の一方が働いている場合を目安に考えてみる。世帯年収910万以下であれば、公立高校の授業料(年間11万8800円)が実質無償となる。また、2020年からは、世帯年収590万円以下であれば、私立高校までが実質無償となる制度も始まった(年収590万以上、910万以下であれば、公立高校無償化のみが適用される)。

 例えば、子どもが4人いる場合、児童手当を満額受け、さらに高校無償化の恩恵に浴する世帯と所得制限世帯を比較すると、子どもが成長する過程で実質的な受益額として約1500万円の差額が発生する。

 また、まったく補助がない世帯と補助がある世帯を比較すると、年度ごとの可処分所得が逆転する事態さえ起こっているのだ。

 例えば、5人世帯(就業者1人+専業主婦[夫]、子ども3人(中学生1人、小学生2人)の額面世帯年収が990万円と960万円を比較してみると、990万円の場合、税+社会保険料(277万1078円)を引くと手取年収が712万8922円となり、そこに特例給付の児童手当(5000円×3人×12カ月=18万円)が加わり730万8922円となる。

 一方、960万円世帯の場合、税+社会保険料(267万6211円と)を引くと692万3789円となり、そこに児童手当(子ども2人×1万円、第三子1万5000円なので、3万5000円×12カ月=42万円)が加わり、734万3789円となる。よって、逆転現象が起こり、ここに税制の重大な欠陥が露わとなっている。

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