尹錫悦は「シャングリラ」で従中の馬脚を現した 後は「キシダ」を騙すだけ

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屈従外交は止めよ

――腰砕けの尹政権。保守から批判は起きないのでしょうか?

鈴置:親米への回帰を期待していた外交関係者からは、すでに懸念の声が漏れていました。外交官OBであるイ・ヨンジュン元北朝鮮核問題担当大使が朝鮮日報に「[朝鮮コラム The Column]外交・安保政策の正常化は今、始まったばかり」(6月10日、韓国語版)を寄稿しました。最初の段落にはこうあります。

・危機に瀕していた国家安保の復元と、中国・北朝鮮に対する屈従政策の清算という重い課題を課せられていた外交・安保分野でも静かな変化の風が吹き始めた。

 昔は外交部の保守本流だった親米派にすれば、左派政権の「反米従中親北」外交は我慢がならない。寄稿には保守政権に戻った喜びがあふれています。でも、手放しでは喜んでいません。

・それにもかかわらず、外交・安保政策の正常化の核心である対中国・対北朝鮮政策の変化は今、始まったばかりだ。越えねばならぬ大きな山が残っている。
・対中国屈従外交の象徴である「3NO」はまだ、健在である。ことに対中自主外交と北核への対応の核心事項であるTHAADの追加配備が断行されるフシがない。

 韓国人のプライドが「3NO」の破棄と、THAADへの干渉排除にかかっていることが良く分かる論説です。ちなみに、これが載ったのは中韓国防相会談の当日朝。「越えねばならぬ大きな山」に跳ね返された尹錫悦政権を見て、イ・ヨンジュン元大使ら親米派は肩を落としたに違いありません。

「親米」で失点なら「卑日」

――コアな支持層から不興を買った尹錫悦政権の外交担当者はどう対応するのでしょうか?

鈴置:対日外交で得点を上げ「対米」の失点をカバーする、という手があります。岸田文雄政権に歴史問題で謝罪させるのです。「卑日」政策は一般の国民も喝采を叫ぶでしょうし、外交関係者ら「プロ筋」からも大いに評価されます。

 韓国は「政権が変わるたびに日本に謝罪させる」という利権を失ってしまったからです。国交正常化以来、韓国の外交官は謝罪させることで優位に立って対日外交を進めてきたのに、2015年の慰安婦合意でその武器を安倍晋三政権に取り上げられてしまった。外交関係者とすれば当然、尹錫悦政権に取り戻させたい。

 5月26日、国際会議「アジアの未来」にリモートで参加した尹徳敏(ユン・ドクミン)次期駐日大使の発言が、韓国外交界の本音をのぞかせています。中央日報「駐日韓国大使に内定の尹徳敏氏『強制徴用、韓国政府が代わりに弁済するのも方法』」(5月27日、日本語版)から引用します。

・[尹徳敏氏は]日本と葛藤しているもう一つの歴史問題、慰安婦問題に対しても遺憾を表した。2015年慰安婦合意に関連して「問題に対する責任がある日本側で、その後『お金ですべての問題が終わった』というような発言が出てきたことから世論が大きく悪化して状況が変わった」と説明した。補償と謝罪は被害者の名誉回復と治癒のための過程の一環にすぎないのに、日本側が補償ですべてのことが終わったと考えることが問題だったという解釈だ。

 韓国の外交専門家とすれば、慰安婦など歴史問題が解決しては困るのです。日本に優位に立てる材料がなくなるからです。そこで日本がいくら謝罪しようと「心がこもっていなかった」と再び謝罪を要求する――。古典的な手口です。

謝罪の「打ち出の小槌」

 この記事の見出しにある「代わりに弁済」も韓国が仕掛けた罠です。自称・徴用工に対する「韓国政府の代位弁済」というスキームに日本政府が同意すれば、「植民地支配は不当だったと日本が認めた」証拠に仕立てる作戦です。

 日本政府は、徴用は――植民地支配は合法と主張してきました。一方、韓国の最高裁の判決は「不当な植民地支配の下、働かされたからカネを払え」との論理です。誰が弁済しようと、日本政府が弁済による解決を認めた瞬間、「植民地支配は合法」との主張にヒビが入るのです。

「代位弁済」という、いかにも韓国側がすべて面倒を見るような解決方式を持ち出し、日本の外交的な主張を突き崩す――。「不法な植民地支配」をいったん認めさせれば、新たな「謝罪の打ち出の小槌」にできます。普通の韓国人からも大いに受けるでしょう。

――なぜ今になって「植民地支配の不当性」を認めさせようとするのでしょうか。

鈴置:韓国人は今、経済成長と民主化に成功して一流国家になったと胸を張っています。ただ、「一流」を謳うには「植民地だった過去」が邪魔になります。何とかして消し去りたいのです。この心情は『韓国民主政治の自壊』第1章第1節で詳しく説明しています。

 日本を嵌めようとする「やり手」が駐日大使になるというのに、日本の新聞には「尹徳敏待望論」が載ったりします。産経新聞の新大使の任命記事(6月8日)の見出しは「韓国駐日大使に尹徳敏氏」「日韓関係修復の切り札」「冷静な分析力」「北問題にも精通」の4本でした。

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