アンモニアを燃料にして火力発電所を脱炭素化する――小野田 聡(JERA代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】
脱炭素をどう実現するか
佐藤 私は外務省時代、日本のエネルギーの多角化で、ロシアのシベリア北西部に位置するヤマル半島のLNGプロジェクトのお手伝いをしようとしたことがありますが、ロシアに関しては、すっかり状況が変わってしまいましたね。
小野田 そこは頭の痛いところです。燃料調達の多様化の一環として、当社もLNG調達量全体の1割未満ですがロシアから調達しています。他の電力会社、ガス会社もロシアから調達していますから、供給がなくなると大きな影響が出ます。
佐藤 1割を代替するのはたいへんなことです。日本政府は、石炭はともかく、LNGについては、石油・天然ガス開発生産プロジェクトである「サハリン1、2」の継続を表明しています。この立場は維持すると思います。
小野田 イランの核開発に対する経済制裁では、日本は2010年にアザデガン油田から撤退しました。あの後、その権益を手にしたのは中国でした。
佐藤 撤退すれば、サハリンでもまったく同じことが起きると思います。サハリン1は、そもそも税金をつぎ込んで作った日本の資産ですから、撤退はロシアを利することになる。
小野田 エネルギーは国の根幹を担っていますから、それが国家を強くする手段になったり、その資源は戦いの武器となったりします。今回の戦争はそれがあらわになりましたが、第2次世界大戦もそうでした。
佐藤 アメリカが日本に対し、石油の輸出を禁止したことが決定的でした。
小野田 その意味でも、エネルギーを安定的に供給するための多様化が必要で、それは私たちの使命です。いろいろなエネルギー資源を持ち、さまざまな資源国から調達することが重要なのです。
佐藤 エネルギー多様化の中で、今回の戦争の前のヨーロッパ諸国では、脱炭素社会に向け、化石燃料をすべて止めて再生可能エネルギーに置き換えようとしていました。
小野田 私どもも台湾などの洋上風力発電事業を中心に、再生可能エネルギーにも取り組んでいますが、ヨーロッパ流の脱炭素は一本足打法なんですね。そうできるのは、三つの理由があるからです。一つは、ヨーロッパでは大陸棚が広く偏西風が常に吹いていること、つまり洋上風力発電の立地条件がいい。
佐藤 設備も設置しやすい上、効率よく発電できるわけですね。
小野田 ええ。二つ目は、送電網がしっかりしていて、さまざまな国をまたいで電気を送り合うこともできる。そして三つ目は、すでに経済成長しているということです。だから再生可能エネルギーに置き換えやすい。
佐藤 ヨーロッパの置かれた状況から出てきた政策ということですね。
小野田 はい。ところが東南アジアの環境はちがいます。広い大陸棚はありませんし、風が吹いても向きや強さがすぐ変わる。太陽光発電も、雨が多く陽の照らない日が多い。再生可能エネルギーに適した環境があまりないのです。国をまたいでの送電網もありません。
佐藤 まだ国内の送電網を整備している段階ですからね。
小野田 そして、これからの経済成長が著しい。今後、経済成長とともに電力の需要が伸びていく国々です。ヨーロッパの考え方を押し付けられても現実的ではありません。
佐藤 ただヨーロッパでは火力や石炭と聞いただけで拒否反応が起きるくらいに凝り固まっている。
小野田 再生可能エネルギーは自然条件によって、発電量が変動しますから、変動分を吸収するためにも火力発電は必要です。ただ二酸化炭素は減らしていかなければならない。そこで私どもは、発電時に二酸化炭素の出ない燃料に転換していこう、と提案しているのです。
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