空港に着いてすぐ帰る「紋別タッチ」の目的は? 滞在時間はたった20分
北海道のオホーツク紋別空港には、1日に1往復だけ羽田からANA便が飛んでいる。紋別着は午後12時30分、折り返し便は午後1時10分発だ。不思議なことに、紋別に着いて、そのまま羽田行きの便で帰る乗客がいる。滞在時間はわずか20分。紋別市内の観光をするわけでもなく、ただ飛行機で往復するだけなのだ。旅行ライターが解説する。
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「旅行好きの人たちは、これを“紋別タッチ”と呼んでいます。羽田―紋別は片道約1時間45分で、4時間ちょっとあれば往復できる。通常運賃(約4万8千円)なら約1200マイルを獲得できますが、加えてANAには『プレミアムポイント』という特典制度があり、さまざまな特別待遇を受けられるのです」
プレミアムポイントはマイルをもとに搭乗ポイントなどを加味して算出される。最上級の「ダイヤモンド」(年間10万ポイント以上)では専用のスイートラウンジを利用できるほか、コンシェルジュによるサービス、ホテルやレストランへの招待、また、特別ギフトの進呈といった特典がある。もちろん優先搭乗や専用保安検査場の利用もできる。
これらの豪華サービスを受けられる条件は、前年の12月までに必要なポイント数を保持していることだ。
「プレミアムポイントを獲得するためにひたすらマイルを稼ぐ人は、『修行僧』と呼ばれています。以前は国際線を利用すればポイントを稼ぎやすかったのですが、コロナ禍で海外に行けなくなり、代わって“巡礼先”となったのが国内の遠隔地だったわけです」(同)
搭乗客の7割以上がタッチ目的だったことも
これに目を付けたのが、紋別空港の搭乗業務を担う「紋別観光振興公社」だ。同社の中島和彦副社長が言う。
「紋別市の病院は東京から医師が出張してきており、コロナ禍で減便になると医療に支障を来してしまいます。そこで『修行僧』のことを知り、路線維持のため、彼らに来てもらえるような企画を考えたのです。飛行機旅行の著作があるマンボミュージシャンのパラダイス山元さんやANAさんにもお願いして協力してもらいました」
修行僧が空港に到着するとスタッフに出迎えられ、5回以上タッチした人はタッチの回数を記したランキングボードに名前が載る。さらにスタンプカードやステッカー、時には特製Tシャツももらえるという。帰る際にはやはり空港スタッフが見送ってくれる。投じた旅費の割にはささやかなサービスだが、修行僧には大受け。搭乗客の7割以上がタッチ目的だったこともある。
「おかげさまで旅行好きの間で紋別タッチが知られるようになり、これまで約6500人が来てくれました」(同)