石原慎太郎さん「お別れ会」 白い歯を見せニカっと笑った遺影を見て考えたこと
「オレは中国が嫌いなんじゃなくて…」
中国が絡む石原のエピソードは多い。その一つが、東京2020オリンピック・パラリンピックにまつわるものだ。元はと言えば石原が都知事だった2005年に一人で招致活動を始めたようなものだったのだが、この頃から「支那」の呼称を「中国」に改めた。開催実現のためには中国の支持が不可欠と考え、政治家として現実的な判断を下したのだ。また、北京五輪の開催が目前に迫った2008年6月12日、石原は都内で中国大使の崔天凱と会食した。石原は会食の席で崔に向かって「アメリカの国債なんて膨大に持っていてバカだねえ…お互いに」などと機嫌よく話し、この場で都知事としての北京五輪の開会式出席が決まった。石原は中華料理も好きで、私が「敵性国家の食べ物を食べていいんですか?」とシャレで聞いたところ、「オレは中国が嫌いなんじゃなくて、中共(中国共産党)が嫌いなんだ」と真顔で答えていたのも今となっては懐かしい。
石原は中国の歴史や中国共産党草創期の指導者にも精通していた。彼は中国の潜在力に気づいていたからこそ批判を続けていたのだろう。また、自らに強い自信と強いコンプレックスを併せ持つ中、中国共産党の独裁体制に内心あこがれさえ抱いていたような気がする。こんなことを書くと遺影の笑顔が一気に険しくなりそうでもあるが、四半世紀にわたり石原を取材してきた私にはそう感じられて仕方ない。
享年八十九。もし石原が健在ならロシアとともに世界から孤立しつつある中国の現状をどう論じただろうか。
(敬称略)
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