吉田輝星、聖地・甲子園でなぜいま先発? 中継ぎ専念に向けビッグボスの深い思惑
失投ではない直球を被弾
日本ハムの吉田輝星投手が6月5日の阪神戦で、プロ入り後初めて甲子園球場での公式戦マウンドに立った。4年前の夏の全国高校野球選手権、秋田・金足農高の主戦として「金農旋風」で一世を風靡した。野球人生を変えた「聖地」は21歳の右腕の現在地を浮き彫りにした。【津浦集/スポーツライター】
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一、二回は得点を許さなかった。だが、阪神の打順が2巡目に入った三回に1失点。さらに、6月3試合で4本塁打と絶好調の大山悠輔を右打席に迎えた。1ボール1ストライク、捕手の石川亮は、吉田が今年磨きをかけてきた直球を要求し、内角にミットを構えた。スタンドで見守った球界OBが石川の配球を読み解く。
「この局面での内角直球は、ホームランバッター相手には長打と隣り合わせの選択。中に甘く入れば絶好球となってしまう。直球に自信がないとできない。多少、制球が狂っても吉田の球威なら長打は防げる勝算があったと思う」
糸を引く軌道でミットへ向かった白球はしかし、大山が腕を畳んで振り抜いたバットに一閃された。打球は物の見事に黄色く染まった満員の左翼スタンドへ突き刺さる。
「決して失投ではなかった。欲を言えば、まだボール球を使えるカウントだったので、より厳しく内側を突くなりすれば良かったが、あれは大山を褒めるしかない」(同)
吉田はこの回限りでマウンドを譲った。
「阪神の応援がすごくて、これが甲子園か、と。久々の甲子園で、もっといい投球をしたかった」
あの夏は東北に初の優勝旗を持ち帰ろうとする“公立校の星”として、勝ち進むたび、ホームと化していった甲子園を味方につけた。それがプロでは魔物の片鱗を体感し、3回4失点。郷愁と、別の表情が垣間見えた球場への戸惑いがないまぜとなった。
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