首都直下地震が起これば「死者6100人」で済むのか検証 専門家は「ケタが二つ足りない」
関東大震災では死者のうち9万人が火災
「報告書自体は、よくできていると思いますが……」
と言うのは、京都大学名誉教授で地球科学者の鎌田浩毅氏。
「見逃されている点も多い。最大の問題点は、前回の被害想定が発表されて以降、高速道路、鉄道、橋、トンネルなどの都市のインフラや、水道管やガス管といったライフライン網が劣化した点が十分に考慮されていないことです。それらを考慮すれば、10年前と比べて少なくとも死者が減ることはないのでは」
火災による死者も、
「関東大震災の時は、死者10万人のうち、9万人が火災で亡くなっています。これは火災旋風といって、炎を伴う竜巻が発生し、甚大な被害を生んだため。こうした誰も予期していない事態が起きれば、とても今回のような数字では済まないでしょう」
鎌田教授によれば、そもそも、今回の被害想定の元となる「巨大地震」の選び方自体に疑念が残るという。
「10年前の報告書で最悪の被害をもたらすと想定された地震は『東京湾北部地震』でしたが、今回はそれが排除されてしまっている。“発生の可能性が低いから”との理由ですが、本当にそうでしょうか。関東には19カ所の活断層がありますが、そのうち、東京湾にある地震の巣で起こるのがこの地震。1855年に安政江戸地震、1894年には明治東京地震と過去2度にわたって、大揺れしています。ここを震源とする場合、丸の内など東京のど真ん中でも大きな揺れが起こりますから、被害も当然大きくなります。なぜここを外したのか疑問が残りますね」
一番死者が多いと想定される自治体は?
思えば、東京都と小池知事はコロナ禍において、その危険性をあおり、厳しい対策を強いてきた。それによって多くの飲食店などが泣かされたが、そうしたゼロリスク志向の危機管理法を取るのであれば、なぜ、今回の報告書では「大甘想定」を出したのか。こと災害に関しては、どれだけ危険を叫んでも弊害はないはずなのに……。「地震対策の成果が出ています」という、役所のアピールなのかもしれないが、結果的に「首都直下地震はたいしたことがない」との間違ったメッセージを世間に与えてしまった格好になるのである。
これらを都の担当者にぶつけてみると、
「6148名というのは、必ずしも少ない数字とは捉えておりません。決して事態を楽観視しているわけではなく、まだ減災は道半ばであると考えており、今後も対策を進めていきます」
と要領を得ないお答えであった。
「評価できる点といえば、被害の数値ではなく、地震が起こった後に、ライフラインがどうなるか、避難生活がどうなるのか、などの『災害シナリオ』が提示されたことでしょうか」
と述べるのは、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏である。
今回の報告書では、都内の自治体で死者が一番出るのは足立区の795名、火災による死者が最も出るのは、世田谷区の398名といった、そこに住む者にとっては実に恐ろしい数字も並んでいる。
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