首都直下地震が起これば「死者6100人」で済むのか検証 専門家は「ケタが二つ足りない」
首都直下地震で死者6100人――そんな見出しが付いた新聞1面の記事を見て、思わずわが目を疑った向きも少なくなかったのではなかろうか。マルが一つ、いや二つ違うのでは、と。日本の重大危機に関してもなお、なぜ東京都は誤ったメッセージを発するのか。
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「天災は忘れたころにやってくる」の至言で知られる寺田寅彦は、関東大震災が起きた翌年に著書の中でこう述べている。
〈文明が進むほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防禦策を講じなければならないはずであるのに、それがいっこうにできていないのはどういうわけであるか〉
その寺田が、この度発表された都の報告書を見たら、何を思うだろうか。
11年前の東日本大震災での死者・行方不明者・震災関連死者の合計は、2万2207人。27年前の阪神・淡路大震災では6434人の犠牲者が出た。
そうした震災を経て、さまざまな対策が進んでいるとはいえ、世界有数の人口密集地・東京で起こる巨大災害である。それが「死者6100人」の被害で済むか――と先と同じ疑問を抱き、ため息をつくのではないだろうか。
専門家は「ケタが二つ足りない」
5月25日、東京都の防災会議が「首都直下地震」等が起きた場合の、都の「被害想定」を発表した。前回のそれは2012年のものだから、10年ぶりとなる。
中身をかいつまんで説明すると、同会議は、今後、東京都に被害をもたらしうるM(マグニチュード)7~9の巨大地震を5パターン設定し、それぞれ起こりうる人的、物的被害を算出した。
最も被害が出ると想定されたのは「都心南部直下地震」。その名の通り、都心の南部を震源とし、マグニチュードは7.3。空気が乾燥し、火を使う器具の利用が多いことが見込まれる冬の夕方、風速8メートル/秒の条件でこれが発生した場合、死者は6148人、負傷者は約9万3千人、避難者は約299万人、帰宅困難者が約453万人出るとしている。被害を受ける建物は約19万4千棟だ。
ちなみに、10年前の調査で最も被害想定が大きかったのは「東京湾北部地震」で、死者は9641人。それと比べれば、今回は犠牲者数が36%も減っている。
そのため発表を伝える新聞各紙には〈被害3割減〉〈進む減災〉などの見出しで、都の対策の効果を強調する記事が載ったのだが――。
「現場を知る人間にとっては、正直“ふざけるな!”という数字ですよね」
と述べるのは、元東京消防庁消防官で、防災アナリストの金子富夫氏である。
「以前から思っていましたが、こうした都道府県や国が出す被害想定というのは、ケタが二つ足りないと思っています。著名な災害関係の大学教授でも、十万単位の数字を試算する人はいます。僕も首都直下が起きれば、死者は何十万人も出ると思っていますよ」
と憤るのである。
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