王毅外相の後任を巡り、中国共産党は大モメ 習近平体制は決して盤石ではない
最有力候補をめぐる不可解な人事
ここ数代の慣例に従えば、中国外交部の常務副部長、日本で言えば外務省筆頭次官(中国の各部すなわち各省には次官が複数いる)が最有力候補だ。現在は楽玉成という人物で、2月の北京冬季五輪の際行われた、習近平とロシアのプーチン大統領との首脳会談の後、記者団に「中ロ関係という急行列車に終点はない、ひたすら燃料をくべて進むだけだ」という趣旨を述べて海外メディアはこぞって取り上げていた。
しかし、5月末。香港紙は、楽玉成が格下であるラジオテレビ総局の副局長に異動となると報じた。局とは日本で言えば「庁」に当たるイメージであり、次期外相と目されていた人物が格下官庁のナンバーツーに異動となれば、どう見ても左遷人事だ。
台湾報道によると楽玉成の名前は一時、外交部のホームページから消えて、ラジオテレビ総局のホームページに載っていたという。ところが不可解なことが起きた。その後、外交部のホームページに常務副部長・筆頭次官として楽玉成の名前が復活したのだ。
北京の消息筋によると、対米外交が緊迫し、対露外交でも行き詰まる中、党指導部の一部が楽玉成に責任を押し付け、詰め腹を切らせようとしたが、別の派閥からの反発に遭い、実行できなかったのではないかという観測も出ているそうだ。外交の大方針は党中央で決めるため、楽玉成に詰め腹というのは中国ウォッチャーからすると首を傾げたくなるが、そういう観測が出るほど不可解な人事ということが分かる。
楽玉成は中国外交部内ではロシアンスクールに属していて、これまで在ロシア大使館でも二度勤務。カザフスタン大使も経験しており、目下ウクライナ戦争でロシアが世界情勢をかき乱している状況下では、外務省トップに適任だと思われていた。
また、80年代初めから中国の外交部長は副部長経験者が就任しており、例外はない。官僚の世界は日本と同じで例外を極度に嫌うので、他所から関係ない人物を持ってくるというのは至難なことだ。前述の北京の外交筋も「楽玉成の外交部長の芽が消えたわけではない。彼の識見、経験、性格などは部長に適任」と語っていた。
[2/3ページ]