ロシアが「安全操業協定」を停止 根室の漁業関係者は「経済制裁の仕返しか。町は今、疑心暗鬼になっている」
一方的な停止発表
富樫氏以来、苦労して成立した協定が30年以上経った今、崩れかけている。
突然、ロシアがこの「安全操業協定」の履行を停止すると通告してきたのだ。今月7日、ロシア外務省のザハロワ報道官は、日本とロシアが1998年に締結した北方領土周辺海域での日本漁船の「安全操業」に関する協定の履行を中断すると発表した。声明では「日本側が協定に基づく支払いを『凍結』した」と主張し、「日本側がすべての財政的な義務を果たすまで協定の履行を一時停止せざるをえない」としている。
これに対し、日本の外務省は「ロシアがサハリン州との協力事業を協定実施の前提条件であるかのようにして、一方的に協定の履行停止を発表したことは遺憾」(NHK取材への回答)と反発した。8日朝の会見で、松野博一官房長官は「一方的に協定の履行停止を発表したことは遺憾であります。日本側として引き続き協定のもとでの操業が行われるよう、ロシア側と協議を行っていく考えであります」と語った。なお、協定にはサハリンでの協力事業のことなど書かれていないという。
ロシアがらみの漁業4種とは
今回、この一時停止措置をロシアはウクライナ侵攻への日本の経済制裁を理由にしていないが、無関係とは思えない。経済制裁に対する北海道の漁業者へのしっぺ返しについては、心配されたサケ・マス漁、貝殻島の昆布漁の交渉は遅れたとはいえ妥結したばかり。安堵していた道東の漁業関係者には新たな衝撃だった。
落石漁協(根室市)の庄林満組合長は「結局、操業ができないということは、水揚げ出来るかどうかにつながるから、当然落胆はある。とにかく国とロシアとの交渉を見守るしかない」と話している。落石漁協のみならず、根室漁協、歯舞漁協、羅臼漁協の計68隻の船に影響する。
簡単に分けると、ロシアがらみの漁業には4種類ある。
(1)日露サケ・マス漁業協定による北海道東部の太平洋沖合でのサケ・マス漁業、日本の200カイリ内だが、サケやマスがロシアの河川由来という「母川主義」でロシアに協力金を払う
(2)貝殻島昆布漁協定(民間協定)による北方領土歯舞群島の貝殻島の昆布漁、「自国領海」と主張するロシアに入漁料を払う
(3)日露地先沖合漁業協定によるロシア200カイリ内でのサンマ漁やイカ漁。逆に日本200カイリ内でロシアがサバ漁などをする
(4)安全操業協定による北方領土周辺海域のスケソウダラ、タコ、ホッケなどの漁である。
それぞれ毎年、交渉して漁期や漁獲割り当て量、協力金を決める。なかでも「領海侵犯」としてロシアに拿捕などされる危険が多いのが今回の(4)だった。
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