千鳥が東京進出で経験した受難の日々 なぜ人気に火が付くまで時間がかかったのか
いまやお笑い界の「天下取りレース」の最前線にいるのが千鳥の2人である。大悟とノブの2人から成る千鳥はもともと大阪を拠点に活動していた。大阪ではレギュラー番組10本以上を抱える人気ぶりだったのだが、2012年にはそれらのほとんどを捨てて、東京に進出してきた。
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最初は苦戦していたのだが、次第に彼らの面白さが世間に知られるようになり、今では全国ネットで数多くのレギュラー番組を抱える売れっ子になっている。
彼らは単にたくさんの番組に出ているだけではない。その大半がお笑い要素の強い番組であり、芸人として王道を行く活動を展開していると言える。
肩の力の抜けた深夜のお笑い番組「テレビ千鳥」(テレビ朝日)、大喜利的なやり取りもあるゴールデンのクイズ番組「クイズ!THE違和感」(TBS)、千鳥版「あらびき団」のような異色のネタ番組「千鳥のクセがスゴいネタGP」(フジテレビ)、ノブと大悟の高度ないじり芸が堪能できる「相席食堂」(朝日放送)、地上波では流せない下ネタを含んだディープな笑いを追求する「チャンスの時間」(AbemaTV)など、先鋭的な笑いと大衆性を両立させた奇跡のような番組を数多く手がけている。
そんな千鳥の2人は、現在ではお笑い界有数の好感度芸人でもある。最近の各種調査での「好きな芸人」ランキングでは常に上位をキープしていて、それぞれが個人としても人気を博している。泥臭い岡山弁と怪しい風貌がトレードマークだった2人が、なぜそこまで世間に愛されるようになったのだろうか。
「ロケ」で復活
2012年に上京した頃には、彼らには追い風が吹いていた。2011年から2013年にかけて「THE MANZAI」という漫才コンテスト番組で3年連続で決勝に進み、最終3組にまで残ったのだ。また、2012年には当時の若手の登竜門と言われていたフジテレビの「ピカルの定理」に新レギュラーとして加わった。
しかし、この番組は2013年に終了を迎えてしまった。平成ノブシコブシ、ピース、渡辺直美はこの番組をきっかけに大きく羽ばたいていったが、千鳥だけはこの時点では鳴かず飛ばずだった。ここから彼らの受難の日々が始まった。
2014年には先輩芸人である東野幸治が東京でくすぶっている千鳥の2人を案じて、「アメトーーク!」(テレビ朝日)で「帰ろか…千鳥」という企画を行ったこともあった。東野は彼らに対して「もう大阪に帰ったほうがいいのでは……」と優しさの裏返しの手厳しい助言を送っていた。
そんな彼らが復調するきっかけとなったのが、2014年にテレビ埼玉で始まった「いろはに千鳥」という番組だ。千鳥は大阪時代から「ロケの達人」として知られていた。大阪の街角を歩いて、一般人と触れ合うようなロケ企画では、そのポテンシャルを自然に発揮できることが多かったのだ。「いろはに千鳥」では、2人が埼玉各地に出向いて、のびのびとはしゃぎ回ったり、一般人と親しげに話したり、スタッフに不満をぶつけたりした。その飾らない自然体の姿が面白かった。東京のスタジオ収録の番組では硬くなっていた2人が、東京に来てから初めて持ち味を出した瞬間だった。
この番組自体は埼玉のローカル番組だったのだが、その評判は業界全体にじわじわと広まっていった。テレビ制作者の間でも「千鳥は面白い」という評価が固まり、彼らを再びバラエティ番組に起用する動きが出てきた。彼らもこの段階ではようやく東京のテレビに慣れてきて、自分たちのスタイルを自然に出せるようになっていた。ノブがよく使う「クセがすごい」というフレーズもじわじわと浸透していった。
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