EUのロシア産原油禁輸は自分のクビを絞めるだけ 戦費を枯渇させるという思惑はなぜ外れたか

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頼みの綱の米国も…

 苦境に陥りつつあるEUにとって頼みの綱は米国だ。米国の石油製品の輸出量はこのところ日量600万バレルを超え、記録的水準に達しており、その主な仕向地はEUだ。

 だが、米国にも限界がある。欧州向けの石油製品輸出が急増しているせいで米国の燃料価格が急騰しているからだ。米国では5月30日から始まる夏季のドライブシーズンでガソリン需要が増加するのが通例だが、今年はドライブシーズンが始まる前から国内のガソリン価格が史上最高値を更新し続けている。直近の米国のガソリン価格は1ガロン=4.6ドル以上となり、昨年同時期のガソリン価格の1.5倍を超えている。1リットル当たりに換算すると1.2ドル(約160円)だが、「今年8月にガソリン価格は1ガロン=6ドル以上(1リットル=200円超え)となる」という驚くべき予測が出ている。

 米国の精製能力はコロナ禍の影響で日量約100万バレル減少し、足元の水準は約1800万バレルと2015年以降で最低だ。来年までに日量35万バレル分の能力を増強する計画があるが、供給不足の状況に変わりはない。

 気になるのはグランホルム米エネルギー長官が5月24日「国内の燃料価格の高騰を緩和するため、原油と石油製品の輸出制限を導入することも排除していない」と述べたことだ。米国は現在、日量1000万バレル以上の石油製品と原油を輸出しているが、第1次石油危機直後から40年以上にわたって原油の輸出を禁止した「前科」がある。

 同盟国である米国が石油製品の輸出を渋るようになれば、EUの燃料危機は一気に現実味を帯びてしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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