“余命わずかの不倫相手を看取りたい――” 夫の願いを知った妻が書いた「彼女宛の手紙」の中身
「こんなにおかしなあなたを見るのは初めて」
半年が経過したころ、彼女は転んで腕を骨折した。足がうまく前に出ないのよとつぶやくように言ったという。
「あとは緩和ケアしかない。彼女にどうすると聞いたら、最後は緩和ケアをしてもらいたいけど、今はまだ大丈夫、入院はしないと突っ張るんです。でもそれがあるから生きる意欲につながるんだとも思った。個人病院の医師と相談し、彼女の意志を尊重することにしました。その医師が最後まで責任もちますと言ってくれたのがうれしかった」
その1ヶ月後、彼女は立っていられなくなって入院。余命1ヶ月と宣告された。さすがにこれは咲紀子さんには言えなかった。
「会社の共同代表にすべて打ち明けました。そのときは社員は10人になっていたし、電話やメールでの対応はするから、1ヶ月だけ休ませてほしいと。彼は一言、わかったと言いました。ありがたかった」
いつものように会社に行くふりをして咲紀子さんの病室に向かった。体調がよさそうな日はドライブに出かけたこともある。車いすではあったが、彼女は海を見て笑顔になった。
「会社に行くふりをして、いつもと同じ日常を過ごしているように偽っても、妻にはわかっていたんでしょうね。『結婚以来、こんなにおかしなあなたを見るのは初めて。何が起こっているのか教えてほしい』と言われました。僕も心が弱くなっていたんでしょう、すべて話してしまいました。妻は『やっぱりあの人だったのね』と。コンサートに来たときから怪しいと思っていたそうです。そして黙りこくったあげく、一言、『わかった』と言いました。何がわかったのかはわからない。だけど今はこのままにしておこうと判断してくれたみたいです。そのときの僕には周りのことを考えている余裕はなかった」
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