上島竜兵さんの死でなぜテレビ局は暴走したのか…「自殺対策推進センター」代表が語る「自殺報道ガイドライン」の“真意”

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 世界保健機関(WHO)が定めた「自殺報道ガイドライン」は、報道機関にセンセーショナルな自殺報道を慎むよう呼びかけている。自殺リスクの高い人が過度な自殺報道に接してしまうと、模倣自殺をしてしまう可能性があるからだ。いわゆる「ウェルテル効果」を防止するためなのだが、先月、上島竜兵さんが自殺した際、一部のテレビメディアがそれに反する放送をした。

 なぜ、これだけ自殺報道に敏感な世の中になってきたのに、彼らは“暴走”してしまったのか――。厚労大臣指定法人・一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」代表理事の清水康之氏に話を聞いた。

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立て続けに起きた著名人の自殺

 上島さんが亡くなったのは5月11日の未明。夜が明けた7時30分過ぎ、フジテレビの「めざましテレビ」が第一報を伝えた。

 いのち支える自殺対策推進センター(以下、JSCP)では、著名人の自殺が起きた際、厚労省と連携してメディアに注意喚起を行うことを業務の一つとしている。7時35分には、報道に気づいたセンターのスタッフが、センター内で緊急対応時の連絡のため利用するメッセージアプリに、上島さん逝去の情報を投稿した。それを見た清水さんは、直感的に気をつけなければならないと構えたという。

「5月5日に俳優の渡辺裕之さんが亡くなったことが公表されたばかりでした。上島さんのほうが幅広い世代に知名度があります。立て続けに著名人が自殺で亡くなったことがセンセーショナルに報じられるリスクがあると思いました」

ガイドラインが定める「やるべきではないこと」

 すぐさまスタッフは総がかりで対応に入った。真っ先に取り掛かるのが、メディアに対して、自殺報道ガイドラインを踏まえた報道をするように注意を呼びかける文章を作成する作業だ。

「やるべきではないこと」
・報道を過度に繰り返さないこと
・自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
・自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
・センセーショナルな見出しを使わないこと
・写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

「やるべきこと」は、電話やSNSによる相談窓口情報の併記など。JSCPの担当者が注意喚起のための文章をまとめる。

 自殺念慮を抱えている人は、自殺に至った状況や背景について詳細に書かれた報道に触れた時に、自分も死ねば楽になると思ってしまうことがあるという。

「彼らはその時の状況を、“持っていかれる”とよく表現します。自分が自殺で亡くなる場面を具体的にイメージしてしまい、イメージが頭から離れなくなるというのです。だから、ガイドラインでは具体的かつセンセーショナルに自殺を報道しないよう訴えているのです」

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