年金問題「少子高齢化で破綻」は間違い? 支給額が50年前より増えている理由とは

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巨額の資金を運用するリスク

(2)巨額の資金の運用リスクは大き過ぎる

 現在年金保険料は毎年37兆~38兆円が入ってきています。現行は賦課方式ですので、この大部分は年金受給者に支払っていますが、積立方式に変えると、将来に向けてこの毎年入ってくる資金を運用しなければなりません。しかもこの資金は毎年積み上がっていきます。

 20歳から年金制度に加入して60歳まで続けると40年分が積み上がります。38兆円の40年分と言えば1520兆円です。日本のGDPのほぼ3倍の金額になります。しかも世界中の株式市場の時価総額は日本円にすると7900兆円程度ですから、その規模の市場の中で1500兆円あまりの資金を運用するなどということは常識的にあり得ない話です。

 日本の年金積立金を運用している独立行政法人GPIFの運用資産額は200兆円ぐらいで、「池の中のクジラ」と揶揄されているわけですが、もしその8倍近い金額を運用するとなると、これはまず不可能と言っていいでしょう。

不安をあおる記事、営業に惑わされない

 このように年金にまつわる大誤解をいくつか紹介しましたが、この他にも誤解はたくさんあります。詳しくは拙著『知らないと損する年金の真実』に具体的な数字も交えて紹介していますので、ご関心のある方はご覧下さい。

 冒頭にも書きましたが年金というのは私たちの老後生活を支える大きな柱です。公的年金は「保険」である、という本質を見誤ることなく、正しく理解をする。その上で自分自身の将来設計を考えて自らの資産形成を図る、というのが正しい順序だろうと思います。

 不安をあおるような記事や営業に惑わされることなく、ファクトを確かめることが大切なのではないでしょうか。そうすれば絶望や不安、焦燥から解放されるでしょう。

大江英樹(おおえひでき)
経済コラムニスト。1952年大阪府生まれ。オフィス・リベルタス代表。専門分野はシニア層のライフプランニング、資産運用及び確定拠出年金、行動経済学等。大手証券会社に定年まで勤務した後に独立。書籍やコラム執筆のかたわら、全国で年間130回を超える講演をこなす。

週刊新潮 2022年6月2日号掲載

特別読物「『少子高齢化で破綻』は本当か 誤解だらけの『年金』問題」より

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