年金問題「少子高齢化で破綻」は間違い? 支給額が50年前より増えている理由とは
さまざまな対策が
また、我が国が高齢化社会に入ったのは、決して最近の話ではなく、半世紀以上も前の1970年なのです。したがってそれに対する制度の改定も今まで行われてきています。具体的に言えば年金支給開始年齢を引き上げるというのは1980年頃から検討され、2001年から徐々に始まりました。
また2004年の制度改定では基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げたり、保険料率を2017年まで毎年引き上げ、その後は固定する方式を採用したりすることで、制度の健全性が維持されてきたのです。
このように少子高齢化が進むという事実に対しては何もせずに手をこまねいているだけではなく、これまでもさまざまな対策が打たれてきています。
積立方式では運営できない
しかしながら、それでも2008年当時には「少子高齢化が進むのだから、年金制度の運営は賦課方式ではなく積立方式にすれば解決する」という議論が盛んに行われてきました。
最近でも年金制度にあまり詳しくない一部の評論家の方や大学の先生方もこの「積立方式」を相変わらず主張しています。
しかし年金の本質が貯蓄ではなく、保険であるということがきちんと理解できれば、積立方式では運営できないというのがよくわかるはずです。
賦課方式というのは現在の制度と同じで、いつの時点でも現役世代が負担する保険料で受給世代への給付をまかなうというやり方で、先進国ではほとんどの国で採用されています。
「積立方式」の問題点
ではなぜ、積立方式ではうまくいかないのでしょう。二つの大きな理由があります。
(1)寿命がいつまでかは誰にもわからない
これは非常に大きな問題です。賦課方式のようにその時の現役世代が払い込む保険料で年金の給付をまかなうのであれば、どれだけ寿命が延びても、若い世代が誰もいなくならない限り、年金の支給は可能です。ところが積立方式の場合は、それまでに積み立てた金額とそれを運用して得た収益の範囲内でしか年金を支給することができません。
人生100年時代といわれていますが、今後も医療技術の進歩によって想定外に平均寿命が延びると積み立てた年金原資が枯渇してしまうことにもなりかねません。
また、今後インフレがさらに進む懸念もありますので積立金を運用しなければなりませんが、運用では必ず収益が出るとは限りません。企業年金は積立方式で運用されていますが、90年代以降、それが維持できなくなった最大の理由がこの「運用難」だったことからも、積立方式の問題点が浮かび上がってきます。
しかも近年、日銀による異次元の金融緩和が続けられたため、低金利時代が長期化。日本生命保険は運用益が出せないため、企業年金で保証した予定利率を来年4月より年1.25%から0.50%に21年ぶりに引き下げることにしたほどです。
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