年金問題「少子高齢化で破綻」は間違い? 支給額が50年前より増えている理由とは

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支給額自体はむしろ増加

 そこで「1人の働いている人が、何人の働いていない人を支えているか」という数字(図3)を見てみると、最近の2020年では0.89人、30年前の1990年では0.96人、もっとさかのぼって半世紀以上も前の1970年当時でも1.05人と、ほとんど変化がありません。さらに少子高齢化が最も進むと言われている20年後の2040年でも0.96人ですからほとんど今と変わりません。

 つまり年金制度を支える側と支えられる側という観点で実際の数字を見てみると、半世紀前から20年後に至るまでほとんど変わらないということがわかります。これが正しく理解できれば、現在、お年寄りを支えている若者世代の絶望感もやわらぐのではないでしょうか。

 でもこれは考えてみると当然です。さきほどの図2、「65歳未満の人が何人で65歳以上を支えているか」を見ると1970年は13.1人で1人を支えていますが、直近では2.6人で1人となっていますので支える側の人数は5分の1になっています。

 では現在、年金を受給している人は1970年当時に比べて支給額は5分の1になっているのでしょうか? そんなことはありません。支給額自体はむしろ増えています。

働く人は増えている

 ではなぜこうなるのでしょうか? 答えは労働市場の変化と制度の改定にあります。ごく簡単に言えば、働く高齢者と女性が大きく増えているということなのです。

 1970年当時、多くの会社は定年が55歳でした。ところが現在の定年は60歳ですし、ほとんどの会社は65歳までの再雇用や定年延長を実施しています。現在60歳を過ぎても働く人は非常に増えており、令和3年度「高齢社会白書」によれば60~64歳で働く人の比率は71%、つまり約7割の人は働いています。

 また65~69歳で働く人の割合は49.6%ですから約半分の人が働いています。これらの人のほとんどは雇われて働いているので、その多くは厚生年金に加入して保険料を払っているはずです。

 しかも昨年、政府は企業に70歳までの就業機会確保の努力義務を課しました。今後、ますます平均寿命が延び、元気な高齢者が増えることを考えると、労働参加の機会を増やすのは正しい政策といえるでしょう。

 一方、女性はどうでしょうか。総務省の「労働力調査」によると、約40年前の1980年当時、専業主婦世帯は1114万世帯でしたが、2020年には571万世帯と半減しています。逆に共働き世帯は80年当時614万世帯だったのが2020年には1240万世帯へと倍増しているのです。このように高齢者、そして女性の働く割合が増えたことが「就業している人」と「していない人」のバランスを見た場合、それほど変化していないという原因のひとつだろうと思います。

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