「元彼の遺言状」は綾瀬はるかの“ムダ遣い”? 月9の脱・ラブコメ路線は本当に吉なのか
期待ハズレ、役者のムダ使い……評判が思わしくない月9ドラマ「元彼の遺言状」。主演は原作モノドラマで当たり役を多数持つ綾瀬はるかさんだ。「白夜行」のようなシリアスなものから「義母と娘のブルース」といったコミカル路線まで、幅広くヒロインを好演。特に、美人だけどちょっと一癖あるヒロインをやらせると実にうまい。本人の天然ぶりもあって、綾瀬さんや彼女の主演ドラマに対する好感度は安定していた。しかも今回は演技巧者かつ大河の顔である大泉洋さんとのバディものとくれば、期待値は高まって当然だ。
【写真5枚】福原遥、上野樹里…春ドラマでしのぎを削る女性たち
しかしふたを開けてみれば、視聴率はふるわず批判も多い。第1話で脱落、という声も聞かれ、まさかの苦戦を強いられている。
「このミステリーがすごい!」大賞作ということもあり、序盤から怪しげなそぶりを見せる人間が入り乱れる。だから登場人物が多く、初見では名前や関係性を覚えきれない。このドラマを真剣に見ている人はともかく、スマホ片手に見ている層は離れてしまうだろう。筆者は原作ファンだが、展開の速さにびっくりしたものだ。一方で原作にはない事件のエピソード回もあり、結局「元彼の遺言はどうなったんだ」ともどかしく感じてしまった。
ただ綾瀬さんに罪はない。高い報酬を目当てにさっそうと働く、優秀で自信家の弁護士・麗子を魅力的に演じている。むしろ綾瀬さんでなかったら、相当に鼻につくイヤなヒロインになっていたかもと思うくらいだ。コンビとなる篠田は原作とは立ち位置が違うものの、大泉さんによって人の良さがさらに際立つキャラになっていた。物腰柔らかに食事を振る舞うシーンも多く、女性を自然にサポートする令和っぽさが織り込まれているように感じる。
魅力的な原作、魅力的な役者。ついでに言うと、劇伴もとても良い。それでも違和感があるのは、従来の月9フォーマットに無理に原作をはめこんだからではないか。ミステリーと言いつつ、従来のラブコメでよく見られたように、二人の関係性に焦点を当てているように見えるのだ。
最初の出会いは最悪な、ドライな天才と情にもろい凡人。正反対の二人は言い争いながらも、トラブルを乗り越えるたび互いを認め合うようになっていく。月9が描いてきた、恋愛ドラマの王道の流れである。ちょっと意地っ張りなライバルやイヤミな上司も、ラブコメあるあるなキャラ。描きたいのは主演二人の関係の盛り上がり、その材料が恋愛だったのが今までの月9であり、今回はミステリーに変えただけ。「元彼~」ドラマはそう見える。
次ページ:前クールの「ミステリと言う勿れ」ヒットとの違い 今期ドラマの鬼門は「男女バディもの」?
[1/3ページ]