肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方5 ステージIVと言われたらどうすればよいのか?
腫瘍内科医の「質」
大場:その通りで、がん患者の主治医として、国内では外科医がその役割を担うことが今でも少なくないですよね。身近に腫瘍内科医がいると安心ではありますが、抗がん剤しかやらない偏った医師では、不安や心配だらけの患者さんから真の信頼は得られにくい。であるならば、あくまでも私見ですが、抗がん剤治療、緩和ケアにも精通した外科医がもっとたくさん増えてほしいですね。現状、手術件数の多いセンター病院には手術技能にしか関心のない若手外科医が多くみられます。たくさんの手術だけをしていたい、とはいえ彼らがそこから離れると、おそらくは自身で責任をもって目の前の患者さんに抗がん剤治療をし、緩和ケアもしなくてはいけない現場にきっと直面するはずです。
進藤:腫瘍内科医の「数」も大切ですが、それと並行して腫瘍内科医の「質」の担保も重要な課題です。少し前までは、内科や外科といった基本領域で患者さんの全身管理の技術を十分身に着けないまま、ほぼ研修医上がりの状態で腫瘍内科に進む若い医師がいることを少し危惧していた時期もありました。
臨床試験やエビデンスにしか興味がなく、患者の気持ちに寄り添えない医者も少なからず目にしてきました。そうした現状も踏まえてか最近の専門医制度の改革により、腫瘍内科専門医になるためには、まずは内科医としての長い専門研修期間が求められるようになったようです。高度の専門性と全人的ケアの双方を実践できる腫瘍内科医が増えてくれると心強いなと思います。
ではどうすればいいのか?
大場:ブランド力のあるがん専門のセンター病院の腫瘍内科医の横柄なふるまいをしばしば耳にします。患者さんの元に迅速に新薬を届けるための治療開発を使命として、日夜がんばっている尊敬すべき腫瘍内科医の友人も私の周りにはたくさんいるのですが、一方で、ある意味で治験にしか興味がない、研究論文データになりうる患者にしか興味がないことについて、日常診療の中で露骨に出してしまう腫瘍内科医の話も患者さんからよく聞きます。
要するに、自身の業績に直結する治験にエントリーできる患者には懇切丁寧に接するが、治験に入れない、あるいは治験で期待していた効果がないとわかった途端、患者に冷たくあたるということです。平然と「余命〇か月」と言ってのけるとか「このままでは死んじゃうよ」と伝えてしまうとか、そういったことです。もちろん、世の中、研究にとって都合のよい患者ばかりではありませんから。あと、外部向けには緩和ケアの大切さを説くけれど、現場では緩和ケアの実践までカバーしている腫瘍内科医はほとんどいないのではないでしょうか。となると、よそで緩和ケアを探してくださいとなってしまう。
私が診ている患者さんから聞いて唖然としたのが、使える抗がん剤治療がなくなったら「はいさようなら」と言わんばかりで、電子カルテと睨めっこ診療をしている腫瘍内科医の話です。がん専門病院だと、がん患者しかいませんから、一種の慣れが生まれてします。進藤先生の意見と重複するようですが、エビデンス評論や情報量自慢の前に、まずはいち内科医としての基礎をしっかり固め、コミュニケーションスキルと幅広い臨床技能を身に付けたうえで、進藤先生の言う「人生のサポート」を一生懸命してくれる、そんな質を伴った腫瘍内科専門医がたくさん増えてほしいですね。きれいごとだけではなく、緩和ケアも一緒にしっかりやってほしい。
進藤:理想でいえばそうですね。ただ、一人ひとりの患者さんとじっくり向き合うためには、あまり大きな組織では難しいのも事実だと思います。高度ながん診療を担う大学病院やセンター病院では治療する患者さんも多いですし、直接治療に関係のない業務も沢山ありますから、一人の医師がそれぞれの患者さんのために長く時間を割くことは物理的に難しい。私自身もなるべく時間をかけたいと思っても、身体が空かないというのが現実ですね。
本来、相対的に重症な患者さんや難しい患者さんが多い大病院こそ、そういった「人を診る」医療の重要性が増すはずですが、理想と現実にはギャップがあります。ではどうすればそうした問題をクリアすることができるか。その答えの一つは「チーム」をつくることだと思っています。チームといっても診療各科のいわゆる「受け持ちチーム」ではなくて、一人一人の患者さんに対して、必要な治療、必要なサポートを考え、科の垣根や職種を超えたテーラーメードの診療チームを形成することです。一人の医療者ではキャパシティにも限界がありますが、チームで情報を共有し、全員で個々の患者さんのサポートに当たる。今、私のところではそうした新しい医療モデルに基づいた診療体制の整備を進めています。
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