「韓国に親しみを感じる若者」が増加 ソフトパワーは平和に寄与するのか(古市憲寿)
ゴールデンウイークの沖縄の北谷(ちゃたん)は、街中にポケモンが溢れていた。パレードでは大量のピカチュウが街中を練り歩き、子どもから大人、近くの米軍基地関係者までが無邪気な笑みをこぼす。夜にはHY出演のライブショーが開催され、ドローンによる巨大モンスターボールが出現した。
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1996年に発売された携帯ゲーム機用ソフトから始まったポケモンは、世界を席捲する怪物級のコンテンツとなった。ゲームソフトの出荷本数は3億8千万本、カードゲームの累計製造枚数は341億枚を超え、テレビアニメは世界183エリアで放送されてきたという。
現在の世界で、軍事力と経済力というハードパワーがものを言う状況に変わりはないが、それでもソフトパワーの力は侮れない。
思い出すのは、10年ほど前、上海の淞滬(ソンフー)抗戦紀念館を訪れた時のことだ。上海事変の激戦地に建てられ、「上海市愛国主義教育基地」にも指定されている。ちょうど地元の小学生が引率の先生と共に来ていた。まさに「愛国教育」の真っ最中というわけだ。
どんな「愛国教育」が行われているのだろうとのぞいてみると、子どもたちはシアターで上映されていた映画に夢中だった。抗日の戦争映画かと思ったら、何とディズニーの「白雪姫」が上映されていた。
かつて日本でも愛国心教育の是非が議論された時期があった。しかし愛を強制することはできない。恋愛と同様だ。「俺のことを好きになってくれ」はストーカーのせりふである。
しかし強制などしなくても、中国の子どもが進んでディズニー映画を観るように、コンテンツを通して国や文化のファンを増やすことはできる。
特に工業製品に比べて、映画やドラマ、音楽などは言語や文化を含めて、その国のファンを増やす効果がある。実際、内閣府の調査によれば、「韓国に対して親しみを感じる人」の割合が、この数年、特に若年層の間で上昇傾向にある。
一方の韓国では、ポケモンパンを巡る騒動があった。キャラクターシールが封入された普通のパンなのだが、BTSのメンバーも買うほどの人気で、品切れ状態が続いているという。
ソフトパワーだけで世界が平和になるとは思わない。ハードパワーが、打算や損得勘定に基づいた味方を増やすのに対して、ソフトパワーはもっとウエットだ。そして愛情や共感という感情に支えられた力である分、脆弱でもある。
だが世界は損得勘定だけで動いているわけではない。人間は合理性を超えた行動を起こす。悲惨な事例には、独ソ戦のような互いのイデオロギーを懸けた絶滅戦争があったが、ゲームやアニメが平和に寄与する局面が訪れるかもしれない。
そもそもソフトパワーを国単位で考える必要はない。優れたコンテンツは国を越え、世界に遍在するようになる。それは新しい世代にとっての共通体験となる。世界の首脳がポケモン外交をして、戦争危機が回避される時代が来るといい。