ギリありえそうな科学技術がカギの「パンドラの果実」 見どころはディーン・フジオカの狂気

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 ふと気付いたのだが、日テレのドラマを書くのは約半年ぶり。日テレは新奇性や話題性のある作品も多く、最も若い人向けに舵を切っている印象はあるが、今期は焼き直しが多い。おかっぱ頭の新人が社内をドタバタ走り回るのはキツイし、祖父の呪いを謳う美形の少年探偵にも新しさはないし、先回りする探偵の続編はコント劇場と化して、別モンになっとるし。あれはあれで香ばしいのだけれど。唯一「お、これは?!」と思ったのが「パンドラの果実」だ。

 眉目秀麗&頭脳明晰な刑事(ディーン・フジオカ)と土着的昭和マインドの刑事(ユースケ・サンタマリア)のよくある組み合わせ、さらには若き天才科学者(岸井ゆきの)を招聘(しょうへい)というスタイルに、特筆すべき新鮮味は1ミリもないのだが、事件の中身というか、概要がちょっと興味深かったので。

 AIロボットが殺人事件の容疑者だったり、能力向上のために脳に埋め込んだチップが発火したり、人間の脳内データを転送したりする技術が描かれる。

 また、安置所から遺体が歩いて行方不明になったり、VRゲームのプレーヤーに謎の飛び降り自殺が多発したり。原理にはそこそこの説得力というか、可能性を感じる。たぶん、男が妊娠するよりも納得がいくんだよ。

 さらに、急速に老化して死に至った遺体の出現など、事件そのものが面白いというか、科学技術的なイマドキ感満載。YouTubeのあおりタイトルっぽい雰囲気も醸し出しつつ、ありそうでありえない、いや、でもそのうち起こりうると思わせるギリギリの攻め方。意外と見入っちゃっている。

 おディン様が演じる警視正は、生命工学を研究して警察庁に入った変わり種。「科学は人類にとって光」と信じている。榊マリコか。

 実は、愛する妻が出産後に亡くなっているのだが、遺体はアメリカでマイナス196℃の冷凍保存中。科学技術が発達したら、妻をよみがえらせようともくろむおディン様の狂気。冷凍されているのは本仮屋ユイカ。略して冷凍イカ。なんつって。

 そんなおディン様に科学犯罪対策室を任せたのは、警察庁刑事局長のイッツジー・イタオ(あ、今期大活躍の板尾創路ね)。そして、現場経験豊富で検挙率No.1のデカ・ユースケを、足としてこき使うおディン様。さらにアドバイザーとして呼んだのは、絶滅危惧種のバイオ養殖に取り組む科学者だが、過去にトラウマがありそうな岸井というトリオ。

 おディン様の大学時代の後輩で厚労省官僚、地下アイドル好きなのは佐藤隆太。ちょいちょい捜査の役に立つ、使える官僚でもある。

 複数の事件にうっすら関与していそうなのが、科学で不老不死の実現を目指す安藤政信(最近は悪役が多く、顔つきも変わってきた)。

 おそらく裏テーマとしては「科学技術の発展に伴う人間性と倫理観の揺らぎ」。妻の死を受け容れることができないおディン様の苦悩がメインディッシュかと。

 そうそう、おディン様の幼い娘役を演じる鈴木凛子が実に子供らしくて無邪気な自然体、ということは特筆しておく。うまいの。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年6月2日号掲載

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