【日大事件】新リーダーを決める「学長選挙」を控え、田中前理事長との決別と疑惑解明なるか

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解明されない謎

 さて、このような近況に関心を寄せると、つい目の前の動きに興味が奪われ、大局を忘れてしまう。問題の原点に改めて目を向けよう。

 そもそも、なぜ田中氏は、井ノ口忠男元理事(65)を中心とする日大事業部の増長を推進したのか。外部に直接支払われていた支出の多くを、日大事業部を通して内部留保し、一部は本部あるいは理事長に還流する仕組みがなぜ必要だったのか。私腹を肥やすためではなかったとすれば、やはり大学経営のトップとして、政財界との様々なパイプを太くするための資金が必要だったのか。

 その謎はまったく解明されていないどころか、ほとんど調査された形跡もない。裁判が確定したいまなら、ただ“決別”と言って学外追放するだけでなく、いよいよ本腰を入れて大学が田中氏を尋問し、日大事業部創設の意図や経緯、井ノ口氏を重用した理由、その周辺で発生した余剰金の使途について、明解にすべきではないだろうか。

 その謎が解明されなければ、いくら健全化を叫んでも同じような問題がまた起こる可能性は残り続けるかもしれない。

 ある日大関係者から、興味深い証言を聞いた。昨年度と比べて、大学の広報予算がほぼ半減したというのである。半減の理由は、井ノ口元理事の姉が経営する会社に発注する体制を見直したためだと言う。「井ノ口元理事の姉の会社と取引をやめただけで、広報予算が半減する。いままで一体、どれだけ余計な予算が投じられていたのだろうか」といぶかしがる。

 その利益が、単にその会社の利益になっていたのか。一部は、井ノ口氏や田中氏にも還流していたのか。一切、捜査も調査も進まなかったように見える。

妻を守る格好で

 東京地検特捜部が日大本部に捜査に入ったと報じられ、田中氏逮捕に至ったとき、特に政治部、社会部の記者たちは、その周辺への波及を思い描いた。政治家や反社会勢力への不正な資金の流れが告発されるのではないかと、大きな関心はむしろそこにあった。

 当の田中氏も、先に日大医学部附属板橋病院の建て替え計画に絡む贈収賄事件の捜査が進んでいたころ、「俺が逮捕されるようなことがあれば、今まで政治家に渡した裏金のことも全部ぶちまけてやる」と豪語したとも報じられた(週刊文春:2021年9月23日号)。

 ところが、逮捕され、容疑の矛先が妻におよぶと、田中氏は態度を変え、それまでの否認から一転して容疑を認めた。病床にある妻をかばっての田中氏の翻意に、どことなく世間の同情が寄せられた。いや、それまでの田中氏批判の激しさが、鈍ったようにも感じられる。そして、脱税の罪だけで手打ちが行われ、事件に幕が引かれたいま、誰もその先にあったかもしれない巨悪の存在を口にしない。妻を守る格好で、田中氏は政治家ら大物への波及を阻止したようにも感じられる。

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