全国各地で120歳超えが続々見つかるナゾ 遺産相続を巡って発覚

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〈「失踪宣告」相続の重荷〉

 5月8日付の読売新聞にそんな見出しが躍った。存命の可能性が低い所在不明者の親族から、その人を法的に死んだとみなす「失踪宣告」の申し立てが行われる事例が相次いでいるという。何が起きているのか。

 ある弁護士が言うには、

「たとえば親が死んだ場合、そのきょうだいの一人でも行方不明などで生死不明だったりすると遺産分割はできません。そこで利用するのが失踪宣告で、当該人物を死亡したものとみなし、残りの人で遺産分割協議ができるようにするのです」

 きょうだいの誰かが行方不明だという程度なら、それほど難儀しないが、

「問題は読売が報じているように、相続人が親族の広範囲に及び、相続の権利がある者をたどっていくと、会ったこともないような人物が出てくるケースです。戸籍上の年齢が120歳を超えるのに存命となっていることも。常識上生きているはずもないのに失踪宣告の手続きが必要で、負担が大きいというのです」

明治の頃だと、死亡届が出されていないことも

 司法統計によれば失踪宣告の申立件数はじつに年間2千件を超える。読売の調べでは、この1年間で明治生まれが111人含まれていたとか。国内最高齢が115歳なのに、120歳以上が50人もいたという。

「明治生まれの人の失踪宣告を扱ったことがあります」

 とは、相続問題に詳しい弁護士の武内優宏氏だ。

「よくあるのは、何代にもわたって不動産が相続登記されていない事例。田舎の山や農地では放っておかれることが多いですね。登記し直すために何代も遡って相続人を探すと40人にも50人にもなり、その中に1人か2人、死亡届が出ていない人がいたりする。明治の頃ですと、誕生後すぐに亡くなったりして、戸籍は編成されているのに死亡届が出されていなかったということがあるようです」

手続き全体に半年以上

 100歳を超えた所在不明者については「高齢者消除」といって、行政側の判断で戸籍が消除されることもある。ただ、これは戸籍の整理に過ぎず、法的な死亡を意味するものではない。

「ですから、家裁への失踪宣告の申し立てが必要なのです。家裁による調査後、もし生きているなら届け出るようにと官報で公告します。公告期間が3カ月あるため、手続き全体には半年以上を要しますね。時間だけでなく弁護士費用などもかかるので、相続人が120歳を超えるようなら手続きをもっと簡素化していいと思います。希望すれば高齢者消除の日をもって死亡とできるようにしてもいいのではないでしょうか」(同)

 他人事だと思うなかれ。2024年から相続登記が義務化される。相続する不動産が未登記で、遡ったら明治生まれの相続人が生きていることになっていた――なんて事態は誰の身にも起こり得るのだ。

週刊新潮 2022年5月26日号掲載

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